その朝――
登校した愛姫は、校門をくぐったところでクラスメイトの山本真理恵に声をかけられた。
元々の性格と、そして超常の世界に身を置いていることから、学校での友人は多くはない。その中では、真理恵はもっとも親しい存在といえた。
「ちょっと……訊きたいことがあるんだけど、いい?」
普段と変わらない軽い挨拶の後、急に、真理恵が真剣な表情になった。
「なに?」
「嘉~って……」
声を落とし、他に聞いているものがいないことを確認するように周囲を見回す。
「……最近、カレシでもできた?」
「――っ!?」
まったく、予期していない質問だった。
「な、な、何故っ?」
訊き返す声が裏返る。
してやったりという表情になる真理恵。
「ここ何日か、嘉~ってばすっごい挙動不審なんだよねー。ひとりでなにやら考え込んでいたり、いきなり赤面したり不機嫌そうになったり、かと思うとアヤシクにやけていたり。なんてゆーか、恋するオトメ?」
「そ、そんなことないでしょう。なんでもないわ!」
真理恵は明らかに確信している様子。こんな回答では納得するわけがない。なのに、頬が紅くなるのを抑えられない。
「じゃあ、みんながどう思っているか、教室で訊いてみようっと」
「ちょっと待って!」
愛姫を置いて歩き出そうとした真理恵の腕を、慌てて掴まえる。
こんな話題でクラスメイトの注目を集めるのはごめんだ。ただでさえ愛姫は目立つ存在なのに、私生活はほとんど知られていないから、ゴシップネタなんてみんな大喜びで喰いついてくるに違いない。
「それが嫌なら、ちゃんと話して?」
「そ、それは……でも……」
「きちんと話してくれたら、黙っていて欲しいことは内緒にするよ? だけど話してくれないなら、あたしの予想……というかでっち上げを、おもしろおかしくいいふらす」
「で、でっち上げっていった?」
そこまでいくと脅迫だ。
真理恵は普通の女子高生だし、友達の恋バナは興味津々なのかもしれないが。
究極の選択だった。
本当になにもないなら放っておけばいい話だ。しかし初体験とか、恋人っぽい男性とか、三角関係とか、教室中が盛り上がりそうなネタが実際にあったことだから困る。ただでさえ人にはいえないことが多い身の上である。変な噂にひとり歩きされるのは好ましくない。
「…………ほ、本当に、内緒だからね」
仕方がない。
ゴシップ好きの真理恵ではあるが、本当に重要な秘密は守るくらいの分別はある。話せることだけは話した上で口止めした方が被害は少ないだろう。
廊下や教室では誰に聞かれるかわからないので、校舎には入らず、真理恵を引っぱって裏庭へ向かった。校舎と体育館の間の物陰になる場所であれば、朝のこの時間帯はほとんど人目はないし、ベンチが置かれているので話をするには都合がいい。
「……で?」
ベンチに腰をおろすと同時に、真理恵は興味津々といった様子で身を乗り出してくる。
その勢いに押されて、とりあえず穏便に話せそうなことを選んで話しはじめた。
「え、ええと……こ、恋人、というわけではないんだけど……ま、まだ、ね。ちょっと、気になるというか、仲がいいというか……そんな男性が……」
「えーっ、孤高の女帝、嘉~についにオトコが? 誰? どんな人? どこの学校?」
矢継ぎ早に訊いてくる。答える暇もない。
「あ……えっと……は、二十歳の、大学生で」
「大学生! やっぱりねー、嘉~に似合うのは、やっぱ大人だよね。ね、どんなタイプ? カッコイイ?」
「ふ……普通、かと」
「嘉~のいうフツウって、なんか、すっごい基準が高そうだよね」
真理恵は勝手に盛り上がっているが、実際のところ、悠樹が世間一般の女の子からどんな評価を受けるのかはよくわからない。なにしろ、これまで恋愛沙汰なんて特に興味はなかったし、異性の容姿の良し悪しもほとんど気にしたことはない。
身近にいる歳の近い男性といえば従兄くらいで、たまたま一緒にいた時に会ったことのあるクラスメイトにいわせると超級の美形らしいのだが、愛姫にとっては単なる見慣れた顔でしかない。
たぶん、男性の容姿に関する評価基準を持っていないのだろう。悠樹がハンサムか不細工かと訊かれても「普通」としか答えようがない。
「ねーねー、写真とかないの? プリクラとか、ケータイの待ち受けとか?」
「……考えたこともないわ」
そういえば、普通の女子高生なら、彼氏の写真くらい持っているのが当然かもしれない。はぐらかしたのではなく本当に考えもしなかったあたり、自分がいかに恋愛沙汰に疎いのかを思い知らされた。
あるいは、これが普通の恋愛であれば、愛姫もそうしたことをしたのかもしれない。愛姫は疎くても、悠樹は普通の男女交際の経験も多そうだ。
しかし悠樹との男と女としての付き合いは、かなり普通ではない状況での肉体関係からはじまったのだ。あれからまだ数日しか経っていないし、悠樹と〈仲よく〉している時というのは、すなわちセックスしている時しかない。そういえば、普通にデートをするという発想もなかった。
そもそも、悠樹とは正式な恋人同士ですらない。それ以前に、悠樹に対する想いが本当に恋愛感情であるかどうかすら確信が持てずにいる。
悠樹のことを愛おしく感じているのは事実だが、それはもしかすると、鬼魔の力に侵された状態でセックスしてしまったことにより、悠樹のことが〈セックスする対象〉として刷り込まれてしまっただけなのかもしれない。
悠樹と寄り添っていたいとか、セックスしたいとか感じることはあっても、デートしたいと考えたことがないのも、そのためかもしれない。単に、これまで恋愛経験がなかったからであれば問題ないのだが。
「……愛姫らしいというか。オトコができても、恋愛初級者なのは変わらずか」
真理恵が苦笑する。
たしかに「初カレシは小学生の時」とかいっている真理恵に比べれば、初級者なのは否定しようもない。
「でも、その割に……」
訝しげな表情を浮かべる真理恵。
続く台詞は、完全な不意打ちだった。
「もう、キスとかした?」
「――っっ!!」
予期せぬ奇襲に、表情を作る余裕もなかった。
まずい、と思いつつも赤面するのを止められない。
「……ふぅん、そっかぁ?」
にんまりとした笑み。
とびっきり面白いおもちゃを手に入れた、子供のような顔。
「ひょっとして、キス以上のこともしちゃったんだ?」
この手の話題には免疫がないだけに、誤魔化すこともできなかった。無言のままでも、動揺がはっきりと表情に出てしまう。
「へぇー、嘉~がねぇ。あれ? てことは、付き合いはじめて即エッチ? 嘉~がぁ? どうしてどうしてっ? いったいどんなシチュエーション?」
さらに勢いを増す質問攻め。瞳を爛々と輝かせて、身体が密着するほどに身を乗り出してきた。
真理恵の顔が、至近距離にある。その距離が悠樹とのキスを想い出させて、さらに赤面してしまう。
当然、質問に答える余裕などなく、愛姫はただ狼狽えるばかりだ。
――と。
「――――っ!!」
なんの前触れもなく、身体を貫く衝撃。
突然のことに、痛みとすら感じられなかった。
全身が強張り、自分の意志で動かせなくなる。
悲鳴すら上げられず、愛姫はベンチから滑り落ちた。
焦点がうまく合わない瞳に映るのは、立ちあがってこちらを見おろしている真理恵の姿。どこか虚ろな瞳で、曖昧な笑みを浮かべている。
その手に持っているのは――小さなスタンガンだった。
いったい、なにが起こったのだろう、状況が理解できない。
真理恵は倒れている愛姫の傍らに跪くと、ポケットから小さな瓶を取り出した。栄養ドリンクのような茶色の小壜だが、ラベルはなにも貼られていない。
キャップが開けられるのと同時に漂ってくる、特徴的な、生臭い匂い。
愛姫も知っている匂いだった。
ここ数日、毎日のように接している匂い。だけど、まったく同じではない。もっと匂いが強い。獣臭、とでもいうのだろうか。
この匂いも、知っている。
しかし、どうしてここに?
これは――鬼魔の精液の匂いだ。
何故、真理恵が?
答えは、ひとつしかない。
真理恵が、小壜に口をつける。その中身を、一滴残らず口の中に流し込む。
同時に、表情が変化する。
恍惚の表情で顔を近づけてくる真理恵。明らかに正気ではない。
避けようにも、身体が動かせなかった。
唇が重ねられる。抗うこともできない。
強引に唇を割って、生臭い、それでいて甘美な液体が流し込まれる。
「――――っっっ!!」
口の中に、生臭くて苦い、なのに気が遠くなるほど官能的な味が広がる。
次の瞬間襲ってきたのは、スタンガンとはまったく別種の衝撃だった。
愛姫の知識の中でそれに最も近いものは、あの、鬼魔の力に侵されて正気を失っていた夜の、破瓜の瞬間の圧倒的な快楽の津波。
だから――
理性的な思考ができたのは、そこまでだった。
「ぅ……ん……?」
混濁していた意識が、徐々に澄んでくる。
目の焦点が合い、見ているものが理解できるようになる。
理性的に、ものを考えられるようになる。
そこで愛姫は、自分が全裸で、床に直に敷いた毛布の上に寝かされていることに気がついた。
ここはどこだろう。
広い部屋だ。ホテルの大広間のような作りだが、全体に薄汚れている。どこかの廃ビルといった印象だ。
身体が動かせない。
腕も脚も、力が入らない。
意識も、まだ幾分ぼんやりとしていて、完全に元通りとはいえない。
そして、身体の芯が熱かった。
インフルエンザで寝込んだ時よりも熱っぽく、のぼせたような感覚。先日の、鬼魔の力に中てられた時と似ているが、あの時よりも状態は悪い。
胸が張っていて、股間がぐっしょりと濡れているように感じる。下半身が疼いて仕方がない。
なのに、身体が動かせない。
視界の隅に、真理恵の姿があった。全裸で愛姫の傍らに座り、正気を感じさせない笑みを浮かべてこちらを見おろしている。
その隣に、もうひとつ見知った顔が並んでいた。二十代後半の女性、クラス担任の吉田瑛子だ。こちらもやはり全裸だった。
ふたりから、濃厚な鬼魔の匂いが漂ってくる。しかし、彼女らが鬼魔なのではない。愛姫も何度も見たことのある、発狂するまで鬼魔に犯された者の気配だ。
そしておぞましいことに、吐き気をもよおす鬼魔の体液の匂いは、自分の身体からも発していた。
「嘉神ぃ、目、覚めた?」
「……山本……、それに……吉田先生?」
「さあ、素敵な時間の始まりよ、嘉~さん」
ふたりの手が、愛姫に触れてくる。
生臭い粘液にまみれた、ぬらぬらと光る手。
「――――っっ!!」
指先が胸のあたりに触れただけで、悲鳴も上げられないほどの衝撃に襲われた。
ふたりの手が、愛姫の身体の上を滑っていく。首筋、胸、腹、そして太腿や下腹部。
ねっとりとした鬼魔の体液が擦り込まれていく。
熱い。
灼けるような熱さが染み込んでくる。
なのに、それが気持ちよくてたまらない。
身体中が性感帯になって、それが同時に犯されているようだ。
生臭い獣の匂いが、なのに、嗅いだだけで気が遠くなるほどの快感をもたらす。
瑛子が唇を重ねてくる。
口移しに流し込まれる、獣の体液。吐きそうなほどに気持ち悪くて、だけど、うっとりするほどに甘く感じる。
飲んではいけない――理性ではそう思うのに、喉が勝手に動いて貪るように飲み下す。さらに舌を伸ばして、最後の一滴まで惜しむように瑛子の口の中を舐め回す。
熱い。
身体中が熱い。
どうしようもないくらいに身体が疼く。
もっと、欲しい。
欲しくて仕方がない。
あの、悠樹に初めて抱かれた夜よりも強く、そう想う。
気が狂いそうなほどに、欲しくてたまらない。性器を深く深く貫かれたい衝動が押し寄せてくる。
「気分はどうだ? 魅魔の娘」
男の声がした。
少し離れたところに置かれた古ぼけたソファに、三十代くらいの、外国人プロレスラーのような筋肉質の巨漢が全裸で座っていた。
やはり全裸の見知らぬ女性がその足許に跪き、男の股間に顔を埋めて身体を痙攣させている。
男が人間ではないことは一目瞭然だった。
鬼魔。
それも、かなり力の強い個体だ。
顔に大きな傷があり、右目が剔られていた。まだ、それほど古くない傷痕だ。鬼魔の超人的な回復力でも癒えていないということは、その傷は退魔の力を持った人間か、あるいは同族につけられたことを意味する。
それで、男が何者かわかった。
人間の姿を見るのは初めてだが、あいつだ。悠樹や神流と初めて出会った時の、狼の群のボス。神流はカミヤシと呼んでいた。人間社会に紛れ込むための名ではなく、鬼魔としての名。それを持つということは、古い、純粋な鬼魔の血統の末裔だだろう。
愛姫は、自分がどれほど危機的な状況にあるかを理解した。
鬼魔の群のボスが、魅魔の血を手に入れるために愛姫を攫ったのだろう。鬼魔が直接近づけばすぐに気づかれるので、愛姫の周囲の人間を操ったのだ。
退魔師に対してこうした搦め手を使う鬼魔など珍しい。普通の人間相手なら策を弄する必要もないし、大抵の鬼魔は、追い詰められない限り退魔師との直接対決は避けるものだ。
しかしこいつは、自分から、愛姫に挑んできた。それだけ自信があるのだろう。
唯一の救いは、すぐに殺される可能性は少ないことだろうか。鬼魔にとってはなによりも貴重な魅魔の血は、生き血でなければ意味がない。生かしておいたまま、生き血を啜ろうとするはずだ。
全身に鳥肌が立つような気がした。これから間違いなく、鬼魔に犯されることになる。いや、もう既に犯されているようなものだ。鬼魔の精液を飲まされ、全身に擦り込まれている。常人ならとっくに狂ってしまってもおかしくない。鬼魔の力に耐性のある愛姫でも、全身が疼いて、犯されたくてたまらない状態だ。
目の前にいるのは、憎き鬼魔。愛姫にとってすべての鬼魔は宿敵であり、その群れのボスなのだ。なのに、犯して欲しいと心底願っている。彼の男性器が欲しくてたまらない。このまま焦らされたらそれこそ狂ってしまいそうだ。
鬼魔に犯されることは耐え難い屈辱だ。だが、なんとしても耐えるしかない。
もう、犯されることは仕方がない。他に味方がいない状況で、愛姫自身も戦える状態ではなく、完全に鬼魔の力の虜になって、犯されることを渇望している。
しかし、そこにこそ反撃のチャンスはある。
鬼魔は必ず、愛姫の生き血を求める。愛姫が鬼魔に犯されることを望まずにいられないように、鬼魔も、魅魔の血を前にしていつまでも手を出さずにはいられない。
しかし魅魔の血を一滴でも口にすれば、鬼魔は強大な力を得る代償として、愛姫に操られる危険を甘受することになる。
その時まで、ほんのひとかけらでも理性を残していられたら勝ちだ。愛姫の血は、並の鬼魔なら一滴にも満たない量で即死させることができる。カミヤシが鬼魔の本能のままに血を貪れば、どれほど力のある鬼魔だろうと愛姫の力には抗えない。
だから、愛姫が今するべきことは、そのチャンスが来るまで耐えることだ。
あの日、悠樹に抱かれてよかったと、心の片隅で想う。初めての相手が鬼魔だったら――なんて、考えるだけでもおぞましい。
悠樹がいった通りだ。初めての相手は、ちゃんと、好きだった男性――そう思えば、これから我が身を襲う陵辱にも耐えられるはずだ。
カミヤシを見つめる。
意図せずとも、熱っぽい視線になってしまう。
まだ思うように動かない手を、自分の下半身へと運ぶ。自分の指で、拡げてみせる。開いた膣口から、熱い蜜がどろりとこぼれた。
「……ねぇ……も……ぅ……我慢、できない…………し……て……」
熱い吐息とともに吐き出される言葉。それは、演技と呼ぶにはリアルすぎた。実際のところ、演技をする必要もなかった。目の前の鬼魔に犯して欲しくて我慢できないのは、演技でもなんでもない、まさに心の底から望んでいることなのだから。
カミヤシの口の端がつり上がり、いかにも獣じみた笑みを浮かべる。
「いい姿だ。……だが、その手には乗らんぞ。貴様らのやり口はよく知っている。魅魔の血には、昔、痛い目に遭っているからな」
「ぇ……?」
カミヤシは立ちあがると、背中を見せた。そこには、刃物によるものと思われる深い傷が刻まれていた。
古い傷痕のようだが、いまだに残っているということは退魔の力によってつけられた傷だ。だとすると、致命傷にならなかったのが不思議なほどの深傷だった。よほど運がよかったのだろう。
「だから、お前の母親の恨み、娘のお前で晴らさせてもらう」
「――っ!?」
まったく予想外の台詞だった。
この鬼魔は、愛姫の母親と戦ったことがあったのだ。
愛姫の母親は、ここ数世代ではもっとも強い力を持つ魅魔師といわれていた。使役していた鬼魔の裏切りにより若くして生命を落としたが、それまでに屠った鬼魔の数は数え切れないほどだという。その中に、まだ若いカミヤシがいたのだろうか。
「俺の生涯で、生命の危機を感じたのはあの一度きりだ。二度と遅れをとらないよう研究してきたから、魅魔の力の恐ろしさも、魅魔の力を持つ者の戦い方も、よく知っている」
カミヤシが残忍な笑みを浮かべる。かすかに開いた唇から鋭い牙が覗いていた。
「だから、俺は手を出さん。命取りになるからな」
「……自分で手を下さずに……それで……復讐と、いえるの?」
震える唇で、精いっぱい嘲るように挑発する。
とにかく、傍に来させなければはじまらない。このまま真理恵や瑛子の手で弄ばれていては反撃のチャンスはないし、直接犯されなくても、この状態が長く続けばいつまでも正気を保っていられる自信はない。
近くまで来れば、なんとかなる。カミヤシが自ら愛姫の血を口にしてくれれば話は早いが、そうでなくても手の届くほどの距離であれば、自分で口の中を咬んで、血の混じった唾液を吹きかけるといった戦法もとれる。
「最後は自分の手でやるさ。お前が正気を失ってからな」
「――っ!」
愛姫の表情が強張った。
カミヤシはたしかに、魅魔師との戦い方を知っている。深傷を負わされた復讐のため、魅魔の力に対抗するにはどうすればいいのか考え続けてきたのだろう。
力のある者ほどそれを過信することが多い鬼魔にあって、珍しい性格だ。群のボスでいられるのも、単に体格や力だけではなく、こうしつぁ性格によるものかもしれない。
しかし、愛姫にとっては好ましくない状況だった。
魅魔の力の最大の弱点は、鬼魔を操るのは魅魔師の意志の力だということだ。たとえ多量の血を摂取させたとしても、その持ち主が理性を保ち、鬼魔と戦う強い意志を持ち続けて命じなければ、操ることはできない。
そして、たとえ耐性を持つ退魔師であっても、鬼魔に犯されて長く正気を保っていられた例は皆無だ。
「……さて、いつまで狂わずに耐えられるかな? 面白い見物になりそうだ」
口の端を吊り上げて笑うカミヤシ。
唇を噛む愛姫。
そうしている間も、真理恵と瑛子の手は愛姫の身体を弄んでいる。
愛姫の身体中に、鬼魔の精液を塗り広げていく。
劇薬ともいえる、鬼魔の体液が染み込んでくる。それは愛姫の身体を、そして精神を蝕んでいく。
合成ドラッグすら足下にも及ばない快楽の源。正気を失わせるほどの快楽を与えつつ、神経を侵していく。
普通の自慰やセックスで得られる絶頂よりも遙かに強い快感が、延々と続く。なのに、決して満たされることはない。どれだけの快楽の波が押し寄せても、より強い刺激を求めてしまう。
こんな状態、いつまでも続けられたら本当におかしくなってしまう。いくら耐性があるといっても、そう長くは耐えられそうにない。ほどなく理性を蝕まれ、鬼魔に与えられる快楽を心の底から求めるようになってしまうだろう。
そうなった時には、もうカミヤシに犯されても悦ぶばかりで、魅魔の力を発現させることなどできはしない。ただ快楽を貪るだけの牝に成り下がってしまう。
このままではまずい。
反撃の手段が思いつかない。
鬼魔の毒は既に身体を蝕み、腕も脚も思うように動かせないし、手元に武器もない。
カミヤシは、目の前の魅魔の血にも我を忘れないだけの自制心がある。
助けも、すぐには期待できないだろう。学校から連れ出されたのは朝のこと。それから数時間は過ぎているだろうが、愛姫が攫われたことに麻由や悠樹が気づくのは夕方以降だ。それからこの場所を突き止めるには、さらに時間がかかるだろう。
いちばんの問題は、今、高橋が日本にいないことだ。一昨日から、姉の水姫のサポートのために海外へ行っている。
高橋と水姫、こうした状況で頼りになるであろう二人が国内にいない。麻由は戦いにおいてはほとんど役に立たないし、悠樹は血の力は強くても、鬼魔との戦いに関してはまだ素人だ。
いったい、どうすればいいのだろう。
今できることはひとつだけだ。
たとえカミヤシに犯されても、なんとかわずかでも理性を保ち続けて、反撃のチャンスを待つ――消極的ではあるが、他にどうしようもない。
「ん――っ!!」
真理恵の指が、入ってくる。鬼魔の精液にまみれた指が、膣の中をかき混ぜる。
瑛子の指は、唇を割って口の中に入ってくる。鬼魔の精液の味が口いっぱいに広がる。吐き気をもよおす、なのに至上の美味と感じてしまう。
熱い。
触れられた部分が灼けるように熱い。
痛みを感じるほどに痛い。
それが、気持ちいい。溢れる愛液が沸騰するかのようだ。
「あれぇ? 嘉~ってホントにバージンじゃないんだ?」
中を探るように指を動かしていた真理恵が、可笑しそうに目を見開く。
「あら、真面目な嘉~さんが不純異性交遊? いけないわね」
瑛子の指が、喉まで押し込まれる。
「だったら、指なんかじゃ物足りないよね。もっと気持ちよくしてあげる」
真理恵がいうのと同時に、カミヤシに口で奉仕していた女が離れ、四つん這いのままこちらへ向かってくる。口いっぱいになにかを含んでいるように、頬が膨らんでいる。
入れ替わりに、瑛子がカミヤシの許へ向かう。ソファに座っているカミヤシの上に跨り、歓喜の声を上げる。
愛姫の許へやってきた女に、どこから取り出したのか、真理恵が男性器を模した器具を手渡した。
見知らぬ女は、口に含んだ白濁液を吐きだして、受け取ったディルドーに塗りつける。
真白い粘液にまみれたディルドーが、愛姫の秘裂にあてがわれる。それだけで全身が痙攣した。
「い……や……」
震える唇。しかし心の中は、真逆の声に支配されていた。
早く挿れて。
奥深くまで貫いて。
膣を、子宮を、鬼魔の精液で満たして。
そう懇願する牝の本能。
鬼魔に犯されるおぞましさに震える理性。
相反するふたつの想い。しかし本能の声の方が圧倒的に大きい。
「自分から腰を突き出しちゃって、嘉~ってばやらしいんだから。真面目な顔して、実は淫乱?」
真理恵の言葉もほとんど聞こえていない。
「これ、欲しいんでしょ?」
入口をくすぐるディルドーの先端。そのかすかな動きだけで達してしまう。
だけど、満たされない。
もっと、欲しい。
強く、深く。
思うように動かせない身体で、必死に腰を持ち上げる。少しでも快楽を得たいという本能に突き動かされていた。
「……ほ……しい……欲しいの……」
息が、熱い。
今すぐ挿れてもらえなければ、おかしくなりそうだ。
「あは、やっぱインランだ」
嘲る言葉も意に介していられない。
「挿れ……てぇ……」
ただ、快楽を求める。もうそれしか考えられない。
真理恵の顔に残忍な笑みが浮かぶ。
次の瞬間、奥の奥まで一気に突き挿れられた。
「ひぃぃぃっっ!! ひゃぁぁぁぁぁ――――っっっ!!」
迸る絶叫。
痙攣する身体。
一気に絶頂に達する。
下半身が弛緩して、失禁してしまう。
膣内にハバネロでも擦り込まれたような灼熱の刺激……いや、衝撃だった。なのに身体はそれを痛みではなく、いいようのない快感として受けとめていた。
「ひぃぅぅぅっっ!! うあぁぁぁっっ!! あぁぁぁぁぁ――――っっ!!」
心臓が暴れている。身体中の血管が破裂しそう。
激しく抜き挿しされるディルドー。
ほんの数往復で、また次の絶頂が押し寄せてくる。
それでも真理恵の手は止まらない。むしろ、加速していく。
どんどん、よくなっていく。何度も何度も、立て続けに快楽の津波に襲われる。
悠樹とのセックスを遙かに超えた快楽の頂。
なのに、満たされる感覚がない。むしろ渇きはいや増すばかりで、もっと欲しくなってしまう。
「ねぇ……もっと……もっとぉ……もっといっぱいぃっ!」
足りない。
まだ足りない。
ぜんぜん足りない。
精いっぱい、腰をくねらせる。鬼魔の精液にまみれた器具が、愛姫の中をかき混ぜる。
動けば動くほど、満たされない想いが募るばかりだ。
そこへ、おぼつかない足どりで瑛子が戻ってくる。股間から、真白い粘液を溢れさせて。
真理恵が、もう一本のディルドーを瑛子に手渡す。それを自らの中に挿入する瑛子。
それだけで達してしまったのだろう。虚ろな瞳で、身体をぶるぶると震わせる。
引き抜かれたディルドーは、カミヤシの精液でべっとりと汚れていた。
「インラン嘉~は、一本じゃぜんぜん足りないってさ。こっちにも挿れてあげて」
真理恵の指が、お尻の穴を拡げる。
瑛子が手にしたディルドーが、そこに押し当てられる。
それだけで、意識が飛びそうになる。
いい。
気持ち、いい。
そんな場所が、こんなにも気持ちいいなんて。
……いや。
そこが気持ちいいことは知っていた。悠樹が教えてくれた。
知らなかったのは、触れられただけで達してしまうくらいに感じるということ。
「お尻、経験ある?」
首を左右に振る。
その穴に挿入されたのは、悠樹の指だけだ。男性器や、それに類するものの経験はない。
「その割に、気持ちよさそうにしてるね。欲しい?」
「ほ……っ、欲しいっ! お尻、犯してっ!」
間髪入れず、考えるよりも先にそんな言葉が飛び出した。それを押しとどめる理性は、まったく働かなかった。
「ひ……っ、ひぐぅ……うぁぁぁぁぁ――――っっ!!」
乱暴にねじ込まれる。
前よりもずっときつい。無理やり拡げられ、強引に押し込まれる感覚は桁違いだ。
なのに痛みのためではなく、気持ちよさのあまり悲鳴を上げた。
気持ちいい。
心底、気持ちいい。
前への挿入よりもいいくらいだ。
気持ちよすぎて涙が溢れた。
前後のディルドーが同時に動かされる。
薄い粘膜を隔てて、身体の中でごりごりと擦れ合っている。二箇所を同時に貫かれる快感の大きさは、一箇所だけの時の〈二倍〉ではなく〈二乗〉だった。
愛姫への責めを瑛子に任せ、今度は真理恵がカミヤシの許へ向かう。
四つん這いになって、背後から貫かれる。
真理恵の身体を突き破らんばかりに、カミヤシは乱暴に腰を突き出す。
その動きに合わせるように、愛姫も腰を動かしていた。
あれが欲しい。
カミヤシに犯されたい。あの狼のペニスに貫かれたい。
早く自分の番になって欲しい。心の底から、それを望んでいた。
カミヤシの精液を胎内に受けとめて、絶叫する真理恵。羨ましくて仕方がない。
欲しい。
あの、練乳のように濃い鬼魔の精液で、胎内を満たして欲しい。
恍惚の表情で、真理恵が戻ってくる。
四つん這いのまま、愛姫の顔の上に跨る。
どろりとした白濁液を溢れさせている割れ目に、愛姫は夢中でむしゃぶりついた。
必死に舌を伸ばし、舐め、そして吸う。
一滴だって残したくない。
美味しい。
本当に美味しい。
口の中が、喉が、灼けるように熱い。
だけど、それがいい。
口が、喉が、食道が、そして精液が流れ込んでいく胃が、犯されているような感覚だった。
それでも、まだ足りない。
もっと、欲しい。
身体中の細胞を、ひとつ残らず犯しつくして欲しかった。
もっと。
もっと。
その願いを叶えるように、最初の女がカミヤシの許へ戻っていく。
カミヤシに犯され、その精液を愛姫のところへ運んでくる。
次に、瑛子。
そして、真理恵。
何度も、何度も、繰り返される。
その度に、わずかに残った理性がさらに浸食されていく。
何十回、何百回という絶頂。人知を超えた快楽。なのに満足感だけは得られることはなく、餓えは、渇きは、いや増すばかりだった。
前も、後ろも、口も、鬼魔の精液にまみれたディルドーに貫かれ、鬼魔の体液を身体中の皮膚と粘膜にくまなく擦り込まれ、常人ならとっくに廃人になっているほどの快楽に蝕まれている。
なのに、満たされない。
この陵辱がはじまってから、実際にはせいぜい一、二時間しか経っていないのかもしれないが、愛姫の感覚では永遠に等しい時間が過ぎていた。
かすかな理性の灯火は、嵐の中の蝋燭のように消える寸前だった。もう、あと数回の絶頂に襲われたら、すべてが終わってしまいそうだ。
その時――
ようやく、カミヤシが立ちあがった。
こちらに近づいてくる。
しかしそこで感じた悦びは、反撃の機会が来たことではなく、ようやく望んでいたものが得られることによるものだった。
「そろそろいいか。俺が欲しいのだろう?」
「は……はい……欲しい、です。く、ください! 私を犯してくださいっ!」
菊門を大きなディルドーに貫かれたまま、精液にまみれた秘裂を自分の指で精いっぱい拡げて懇願する。
理性の声など、聞こえないに等しい。
どうせ、今はカミヤシに犯されても反撃はできない。この状態で、力のある鬼魔を殺すような精神集中など不可能だ。
だから、今は耐えるしかない。耐えていれば、いつかきっとチャンスが来る――と。
しかし、それはいい訳でしかなかった。
本心は、もう、カミヤシを倒すことなど考えていない。
ただ、欲しいだけだ。
カミヤシに貫かれたい。胎内を満たされたい。
カミヤシを殺す? 冗談じゃない。いま自分がなによりも求めている快楽を与えてくれる相手なのに。
ただ、それしか考えられなかった。
熱っぽい視線をカミヤシに向ける。
三人の女性をさんざん犯し続けてきたのに、股間にそそり立つものはまったく勢いを失っていなかった。
経験の浅い愛姫にとって、それはおぞましいほどに巨大に見えた。悠樹のものだって、愛姫の感覚ではびっくりするほど大きいのだが、これは比較にならない。
まっすぐに上を向いて、古木の太枝のようにごつごつとふしくれだっていて、白濁液を滴らせている。
怖い。
なのに、欲しくてたまらない。
カミヤシの巨体が覆いかぶさってくる。
唇が重ねられる。愛姫は自分の血や唾液を流し込むどころか、相手の唾液を貪るのに夢中だった。
ほんのひと欠片だけ残った理性も、今はなんの役にも立たないばかりか、むしろ邪魔でしかなかった。こんなものがあるから、こんなにも気持ちいいのに、恐怖と、おぞましさと、自己嫌悪を感じてしまう。
だけど、このわずかな理性を保ち続けていれば、いつか形勢逆転の機会もあるかもしれない――それを口実に、愛姫は鬼魔に与えられる快楽を貪っていた。
膣口に押し当てられる感触は、大きな塊のようだった。こんなに大きなものを挿れられる――その不安さえ、快楽を増幅するスパイスだった。
「い……ぎ、ぃぃぃっ……、あぁぁぁぁぁぁぁ――――っっっっ!!」
襲ってきたのは、下半身が引き裂かれるような衝撃だった。
悠樹に挿入される時だってまだ痛いのに、それよりもずっと太く、硬く、長く、そして熱かった。
経験豊富とはいえない愛姫の膣には、大きすぎる異物。下半身が太い杭で貫かれているようだ。
それがもたらすのは甘美な激痛。
今の愛姫にとって、痛みはすべて快感だった。今日最大の快楽の津波に気が遠くなる。しかし激しすぎるが故に、失神することすら許してもらえない。
全身の筋肉が、骨を軋ませるほどに痙攣する。
肺が空になるまで絶叫し、呼吸をすることすらできない。
大きく開かれた口からは唾液の泡がこぼれる。下半身は愛液と小水を垂れ流している。
今日これまで何百回と達してきた頂よりも、遙かな高み。
いい。
イイ。
気持ち、いい。
死にそうなほどに、気持ちいい。
杭のような男性器を、内蔵が押し潰されそうなほどに深々と突き挿れられ、胎内をごりごりと擦られている。
膣は今にも裂けてしまいそうなほどに拡げられ、なのに、なんの手加減もなく激しい抽送が繰り返されている。
ディーゼルエンジンのピストンのような、力強くて速い往復運動。大量の愛液が潤滑油として噴き出してきても、膣の粘膜が剔られる激痛を和らげる効果はなかった。
「あぁぁぁっっ!! いやぁぁぁぁ――っ!! ひゃ……っ、し、んじゃうぅぅっ!! いいぃぃっ!! いいのぉぉぉぉ――――っっ!!」
溢れる涙。泡となって飛び散る唾液。鼻からは血の混じった鼻汁が流れ出る。
身体中の穴という穴から、あらゆる体液が噴き出すような感覚だった。
激しい。
激しすぎる。
カミヤシの体格は悠樹よりもずっと大きく、男性器はそれ以上に長く太く、力強さは桁違いだ。
その鬼魔の力で、繊細な愛姫の膣が陵辱されている。
ひと突きごとに、腹が突き破られるようだ。
ひと突きごとに、達してしまう。
痛い。苦しい。おぞましい。
なのに、すべてを帳消しにしてありあまるほどに気持ちいい。
「弱いな。お前の母親は比べものにならないくらい手強かったぞ」
侮蔑の言葉は、なんの意味も持たずに耳を通り抜けていく。五感のすべてが性器に集中して、ただ快楽だけを貪り続けていた。
「――――っっ!!」
首筋に噛みつかれる。
太く鋭い牙が皮膚を貫く。
「うぁぁぁっっ!! あぁぁぁぁぁ――っっ!!」
愛姫が上げたのは、歓喜の悲鳴。
今の愛姫にとって、狼の犬歯に皮膚を貫かれる感覚は、極太のペニスに性器を貫かれることと違いがなかった。
もっと。
もっと。
全身の皮膚を貫かれたいとすら想ってしまう。
流れ出す血を、狼の長い舌が舐め取っていく。もう、魅魔の血に操られることなど微塵も警戒していない。愛姫も、反撃することなど考えもしない。
「いやぁぁぁ――っ!! まっ、またぁぁっ!! も、もっと大きくなるのぉぉ――っ!?」
魅魔の血を得たためだろうか。深々と打ち込まれた肉の塊が、ひとまわり太さを増したように感じた。身体が、内側から引き裂かれそうだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ――――っっっっ!! うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っっっっ!!」
膣の中に、何リットルもの煮えたぎった油を流しこまれる感覚――それが、鬼魔の射精だった。
身体の奥深くに、灼熱の液体が噴き出してくる。それはまるでどろどろに熔けたマグマのようだ。
胎内に直に注がれる鬼魔の精液は、これまでさんざん飲まされ、擦り込まれ、流し込まれてきた間接的なものとはまったくの別物だった。
別次元の快楽。異次元の衝撃。
身体の中から灼かれる感覚。
膣が、子宮が、溶かされていくようだ。
沸騰した蜜がどんどん噴き出してきて止まらない。
狭い膣は一度目の噴出でたちまち満たされ、収まりきらない分は子宮口をこじ開け、子宮を水風船のように膨らませて満たしていく。
さらに卵管を逆流し、卵巣が濁流に呑み込まれる。
それでも、止まらない。
際限なく熱湯を噴き出す間歇泉のように、愛姫の胎内に沸騰した粘液を噴き出し続けている。
その間も、カミヤシは激しく腰を打ちつけていく。
あまりにも気持ちよく、あまりにもおぞましい感覚。
かすかに残った理性が拒絶反応を起こしている。いっそ、完全に狂ってしまえば楽になれるのに。
なのに。
なんの役にも立たないわずかな理性が、いまだに残っている。
穢れた精液が身体中を満たしていく感覚なんて、感じたくないのに。
このかすかな理性さえなくなれば、純粋な快楽として受けとめられるのに。
肉体と、鬼魔に侵された精神にとっては至上の快楽も、微かな理性にとってはこの世で最悪の苦痛でしかない。鬼魔に犯さることではなく、鬼魔に犯されて快楽に溺れることこそ、愛姫の正気にとっては耐え難い屈辱だった。
なによりも耐え難いのは、悠樹とのセックスなんて比べものにならないくらい気持ちいいことだ。
悠樹なんかいらない。この、鬼魔のペニスさえあればいい。
身体と、心の大半が、そう感じている。
なのに、今にも壊れそうなひと欠片の理性は、号泣して悠樹に謝り続けている。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
でも――
気持ちいいんです気持ちいいんです気持ちいいんです気持ちいいんです気持ちいいんです、どうしようもなく、気持ちいいんです。
これさえあれば、他になにもいらないくらい気持ちいいんです――
それでも、なにかが違っていた。
悠樹とのセックスとは、なにかが違っていた。
肉体的には、桁違いに気持ちがいい。比較するのも莫迦らしいくらいに気持ちがいい。
だけど、なにか、違う。
なにかが、足りない。
それは、悠樹とひとつになっている時に感じた充実感と、そして、幸福感。
ここには、それがない。
あるのは、ただ純粋な、快楽のみ。
微かな理性が、そう訴えている。
だけど――
そんなこと、どうでもいい――そう感じるほどにその快楽は圧倒的だった。
「――っ!? あぁっ、いやぁぁっっ!! だめぇっ、もっとぉっ!!」
胎内深くに打ち込まれていたペニスが引き抜かれた時には、あまりの喪失感にカミヤシにしがみつこうとさえした。
その腕が掴まれ、身体がひっくり返される。
俯せにされて、お尻を掴まれ、拡げられる。
一瞬前まで膣を犯していた極太の杭が、その中心に押し当てられた。
「ひぃぃっ! ひぁぁぁぁぁぁぁ――――っっ!!」
アヌスへの、容赦ない挿入。
初めて男性器を受け入れる器官なのに、膣への挿入と変わらず気持ちいい。
引き裂かれるような痛みは膣以上で、痛みさえ快感として受けとめてしまう今の状況では、むしろ前よりも感じるほどだ。
深い、深い挿入。
膣と違って行き止まりがなく、長大な鬼魔のペニスが根元まで一ミリも余さずに突き挿れられる。
「あぁ……あぁぁっ! あぁぁぁ――っっ!! ふぁぁぁっ!」
お腹の奥深い部分で脈打っている。腸の中に、熱い粘液が噴き出してくる。
背後から、うなじに牙を突きたてられる。皮膚が貫かれ、鮮血が溢れる。それさえも快楽だった。
小さな胸を、大きな手が鷲づかみにする。獣の爪が突き刺さる刺激さえ、性器への愛撫と変わらずに感じてしまう。
気持ち、いい。
気持ち、よすぎる。
やっぱり、膣よりもいいかもしれない。
挿入が深い分、より広い面積で感じることができる。
お尻でのセックスが、こんなにも気持ちいいなんて。
こんなことなら、悠樹さんもお尻を犯してくれればよかったのに――かすかな理性さえ、そんなことを想う。
そうすれば、前も後ろも、初めては好きな人が相手だったのに。
……いや。
こんなにも気持ちがいいのは、相手が鬼魔だからだろう。人間相手でこんなに感じるわけがない。この快感を知ってしまったら、人間相手のセックスなんてつまらない。
こんなにも激しくて。
こんなにも大きくて。
大きく……?
「え……やぁぁっ!? も、もっときくなるのぉっ!?」
直腸の中のものが、さらに大きさを増しているように感じる。特に、入口に近い部分が、中で膨らんでいくようだった。
気のせいなどではない。
どんどん。
どんどん。
大きくなっていく。
今でさえぎりぎりまで拡げられている感覚なのに、本当に身体の内側から引き裂かれてしまいそうだ。
怖い。
なのに、それが、いい。
そうだ、思いだした。犬科の動物は交尾の時、ペニスの根元が丸く瘤状に膨らむのだ。それが栓をする形になって、抜けるのを防ぎ、精液が漏れないようにする。
「やぁっっ!! ヤダっ! すごいっ! すごいぃぃ――っっっ!!」
お尻の中で、丸く膨らんでいる。
ものすごい異物感、そして圧迫感。
大きなオレンジかグレープフルーツが中に入っているようだ。ごつごつした太い杭を突き刺したグレープフルーツに、お尻を犯されている感覚だ。
少しでも動けば、息が止まるほどの強い刺激が全身を襲う。だけどそれがよくて、自分から腰を振ってしまう。カミヤシはそれ以上に激しく腰を叩きつけてくる。
腸内に流し込まれる大量の精液は、大きな瘤に塞がれて、一滴残らず奥へと逆流していく。その濁流は直腸を越えて大腸まで満たしていく。
二、三度腰を振っただけで達してしまう。それでももっと気持ちよくなりたくて、さらに動いてしまう。
どれだけ感じても、足りない。
何十回、何百回と絶頂を迎えても、満足できない。
もっと、もっと、心も身体も壊れてしまうまで、陵辱されたい。
そんな愛姫の望みを叶えるかのように、カミヤシはなんの手加減もなく下半身を叩きつけてくる。大きく膨らんだ瘤のせいで、どれだけ激しく動かれても抜けることはない。なのに、無理やり腰を動かしてくる。その力がすべて瘤にかかって直腸を刺激する。
内臓を抉り出されるような、正気であれば激痛しか感じないはずの陵辱。なのに今はそれがなによりも気持ちいい。
身体に加えられる、あらゆる陵辱のすべてが快楽だった。それが激しければ激しいほどに、至上の快楽に包まれる。
極太のペニスでお尻を貫かれることも、大きな瘤で内側から引き裂かれそうになることも、煮えたぎった白濁液を大量に注ぎ込まれることも、鋭い牙を突きたてられて生き血を啜られることも、すべてが快楽の源だった。
「はぁうぅぅっ! あぁぁぁ――っっっ!!」
腰に腕が回され、俯せにされていた身体を起こされる。カミヤシの上に腰を下ろした体勢で、挿入がより深くなる。胃が突き上げられるようだ。
串刺しにされたまま、愛姫は本能のままに腰を振る。身動きはほとんど取れないが、動こうとするだけで気が遠くなるほどの刺激に襲われる。
身体を起こしたために、周囲を見ることができるようになった。
いつの間にか、人数が増えている。大広間に、五、六人の鬼魔の姿があった。全員が男で、人間の姿をした者も、獣の姿をした者もいる。
そして、鬼魔に犯され、あるいは傅いている十数人の女たち。全員が若い女で、全裸だった。皆が一様に恍惚の表情を浮かべて、甘い嬌声が広間を満たしていた。
一頭の狼が近づいてくる。灰色の毛皮の大きな狼だ。
下腹部から、長大なペニスがぶら下がっている。毛皮に覆われた身体の中でそこだけは肉が剥き出しの器官は、ひどく不気味で、なのにそれが欲しくて仕方がない。
カミヤシの手に肩を掴まれ、後ろにひっぱられる。お尻を貫かれたまま、仰向けにされる。
その上に、狼が覆いかぶさってきた。
「あ……あぁぁ……」
だらしなく開いた唇から漏れるのは、歓喜のつぶやきだった。
獣に、獣の姿の鬼魔に犯される。穢される。
人間の姿のカミヤシに犯される以上の屈辱。死ぬことよりも苦痛。なのに、そうされることを悦んでいる。
「あ……はぁ、ぁ……うあぁぁぁぁ――――っっっ!! やぁぁぁ――――ッッ! そ、んなっ! 裂け……いやぁぁぁ――っっっ!!」
鋼のように硬く、灼けるように熱い、極太の棍棒のような獣のペニスが無理やり押し込まれる。
ただでさえ、お尻をカミヤシに貫かれ、瘤が膨らんで、身体の中から圧迫されている状態だ。膣は膨らんだ瘤に押し潰され、指一本だって挿れる余地は残っていない。
そこに、愛姫の腕よりも太いような狼のペニスが力ずくでねじ込まれる。
「ひぎゃあぁぁぁぁ――――っっっ!! あぁぁぁぁっあぁぁぁぁぁぁ――――――っっ!!」
膣が突き破られるほどの力で、奥の奥まで打ち込まれる。
下半身が引き裂かれる激痛。それはこの上なく甘美な感覚。
「あ…………ッ……、……っっ! ぅ……ぁぁ…………っ!!」
快楽のあまり、声も上げられない。
前後を同時に極太に貫かれ、下半身が倍にも膨らんでいるように感じる。一ミリでも動いたら、本当に裂けてしまいそうだ。
狼の大きな顎が開かれる。牙が、喉元に突きたてられる。
肉が軟らかなゼリーのように引き裂かれ、鮮血が溢れる。長い舌がその血を舐め取る。
「ひぃっっ!! いぃぃぃぃ――――――っっ!!」
愛姫の胎内で、狼のペニスが大きさを増した。魅魔の血を得て、さらに硬さと熱さを増し、ひとまわり太くなったように感じた。
獣の低い唸り声とともに、沸騰しているかのような熱い奔流が、また、膣を、子宮を、そして卵巣を侵していく。その量は人間の精液の比ではない。
カミヤシ同様に、狼のペニスも膣の中で瘤状に膨らんでいく。ソフトボールのような大きな塊に、膣の中がいっぱいに満たされる。しかもそれは石のように硬く、燃えさかる石炭のように熱い。
直腸と膣の中で、ふたつの大きな焼け石が、限界まで引き伸ばされた粘膜を隔ててごりごりと擦れ合っている――そんな感覚だった。
膣の、そして直腸の粘膜が、めりめりと音を立てるほどに拡げられている。
骨盤がぎしぎしと軋んでいる。
下半身は今にも引き裂かれそうだ。瘤で胎内から押し拡げられた下腹部が、妊娠しているかのように醜く膨らんでいる。狼の動きに合わせて、皮膚の下で蠢いているのがわかる。
膀胱が圧迫されて、絶え間なく小水が漏れ出ている。膣はそれ以上に大量の愛液を分泌している。
愛液、尿、汗、涎、鼻汁、そして血液と大量の涙。失った体液を補うかのように、それ以上の量の鬼魔の精液が流し込まれる。
「ひぃぃぃぃっっ!! いぃっ、ぎ……ぃぃ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――っっ!!」
背後のカミヤシが大きく動いた直後、ひときわ強烈な衝撃が襲ってきた。まるで、身体の中を殴られるような激しい射精。胎内で、大きな水風船を破裂させられたかのようだ。
心臓が破裂しそうな勢いで脈動し、身体のあちこちで毛細血管が破れて鼻血が溢れてくる。その血も舐めとられる。
「ひぎぃっ、いゃあぁぁぁぁっっっ!!」
ほんの少しだけ勢いを失ったペニスが、前後同時に引き抜かれる。まだ萎みきっていない瘤ごと、無理やりに。
言葉にならない、まるで出産のような激痛。
栓が抜けるのと同時に、大量の精液が噴き出してくる。それでも、注ぎ込まれた量に比べれば半分にも満たず、残りはすべて愛姫の身体に吸収され、その肉体を、精神を、狂わせている。
ヴァギナもアヌスも、ぱっくりと口を開いて白濁液を垂れ流している。しかしひと息つく間もなく、前も、後ろも、新たな鬼魔のペニスによって貫かれた。
「――――っっ!!」
大きく口を開く愛姫。しかしもう、悲鳴を上げる力も残っていない。
その口も、新たな狼によって塞がれる。
それでも愛姫は、恍惚の表情を浮かべていた。
いったい、どれほどの時間が過ぎただろう。
片時も休むことなく、愛姫は犯され続けていた。それも、同時に二頭、三頭の鬼魔によって。
前も、後ろも、口も、常に魔物の長大な性器をねじ込まれ、何リットルもの精液を流し込まれ続けている。
狼の牙で身体中を咬まれ、あるいは爪で皮膚を切り裂かれ、流れる生き血を啜られる。
その無数の傷に白濁液が擦り込まれ、さらに愛姫を狂わせる。
一度挿入されれば、終わるまでには数十分から一時間以上かかる。その頃には他の鬼魔が完全に回復して、二度、三度と陵辱を繰り返す。
鬼魔の体力、精力は人間とは桁違いだ。一頭の鬼魔でも、五、六人の人間の女を一晩中でも犯し続けることができるだろう。それなのに今は逆の人数比で、愛姫はすべての陵辱を一身に受けていた。
一瞬も休むことなく、犯され続けている。
鬼魔に犯されているということは、その間ずっと絶頂にあり続けているようなものだ。人間の神経に耐えられる限界など、とうに超えていた。
なのに死ぬことはもちろん、失神することすら許されない。何時間にもわたって、究極の快楽に苛まれ続けている。
何リットルもの精液を流し込まれ、飲まされ、失血で意識を失いそうなほどに血を啜られている。なのに愛姫の身体はまだ快楽を貪り続けて、自ら腰を振り続けていた。ただ、快楽を貪ることだけが目的の機械人形のように。
――それでも、まだ。
心の中に、ほんの、ひと欠片。
理性の痕跡が残されていた。
ほとんど狂ってしまった心の中で、微かに、自分の置かれた状況を正確に理解し、嫌悪感と恐怖と絶望に苛まれつつも、希望を捨てずにいた。
ほんの少しでも、理性を、正気を、保っている限り、いつかチャンスは来るかもしれない。
鬼魔は、愛姫を殺さない。魅魔の血の効力は永遠ではないのだから、血を得続けるために生かし続けるだろう。ならば、こんな饗宴のごとき陵辱が永遠に続くわけでもあるまい。いつか力を取り戻す機会も訪れるかもしれない。
あるいは、いずれ助けが来るかもしれない。
頭の中の、ほんの一部分で、そんなことを考えている。残りの99パーセントの部分が、ただ快楽を貪ることしか考えていないとしても。
簡単に鬼魔の手に落ちてしまったものの、その後、この激しい陵辱を延々と受けながらも完全に狂うことなく、微かな理性を保ち続けていられている。
それは希望だ。
魅魔の血による耐性で、完全には狂わずにいられるのかもしれない。ならば、どんなにわずかな可能性ではあっても、希望はある。
たとえ今は、理性が残っているが故に、この陵辱がより辛いものになっているとしても。
そう、思った。
しかし――
本当に、いったいどれほどの時間が過ぎたのだろう。
数時間か。
一晩か。
それとも数日か。
時間の感覚はまったく残っていない。
もう、誰が自分を犯しているのかもわからない。ただ、絶え間ない快楽の嵐に身を委ねているだけだ。
それでも、カミヤシに犯されている時だけはそうとわかる。
相手が鬼魔である以上、誰に犯されても至上の快楽が得られるのだが、その中でもいちばん気持ちがいい。力のあるボス狼だからだろうか。他の誰よりも愛姫を悶えさせる。
「魅魔の娘もだらしがないな。もっと手こずるかと警戒していたが、人間と変わらずあっさり魅了されるとは」
嘲笑う声が聞こえる。
なんとでもいえばいい。
たしかに、鬼魔に犯される快楽に狂っている自分だが、それでもまだ、狂いきってはいない。
わずかとはいえ理性を、正気を、残している。今は、身体はまったく理性の声に従ってはくれないし、目の前の鬼魔を操るような意思も持てないが、完全に屈服したわけではない。いつか、きっと、チャンスは来る。
それだけが、愛姫の支えだった。
その想いがあればこそ、どんな陵辱にも耐えられた。
しかし――
「もう、終わりにしてもいいか」
カミヤシの唇がつり上がった。
目に、残忍な光が浮かぶ。
「正気を残して屈辱を味わわせた方が復讐としては面白いかと手加減していたが……。こんなに簡単に快楽の虜になり、俺たちに犯されて本気で悦ぶび悶え狂うとは。魅魔師といえども今どきの若い娘はこんなもんか? 拍子抜けだな、お前の母親は本当に手強かったぞ。俺たちに犯されながら片時も戦意を失わず、三頭の仲間が同時に屠られたんだ」
「――っ!?」
まったく予想外の言葉に、一瞬、理性が甦る。
今、カミヤシはなんといった?
正気を残しているのは、わざと?
復讐のため?
手加減?
母は、こんな状況でも戦い続けていた?
なのに、自分は――
ここまで愛姫を支えていたものが、音を立てて崩れていくのを感じた。
「もう、終わりだ。……堕ちろ」
「――――――――っっっっっっ!!」
人間の心を、身体を、支配する鬼魔の言葉。
その言葉を最後に、愛姫の理性は闇の中に溶けていった。
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