翌日の夕方――
その頃には愛姫も普通に動けるようになっていて、普段通りに悠樹に稽古をつけてくれた。
……普段通り?
正確にいえばまったくの普段通りではない。普段よりも少し……いや、かなり、今日の稽古は厳しかった。稽古というよりも『しごき』という表現の方が相応しい。おそらくは昨日の照れ隠し、あるいは仕返しだろう。
稽古が終わった時には悠樹は疲れきっていた上に、全身、打ち身だらけになっていた。
それで多少は憂さ晴らしができたのかと思っていたのに、麻由が愛姫の怒りを再燃させるようなことをいいだした。
曰く、
「稽古の後のシャワーは、犬神様と一緒に利用してくださいね」
――と。
「な、な、な、何故っ、ですかっ!?」
愛姫は怒っているのか、緊張しているのか、麻由に対しても悠樹相手のような敬語になっていた。
「肉体関係のある親しい男女が一緒に汗をかくことをして、なのに別々にシャワーを浴びるっておかしいですよね?」
確認するように、悠樹を見ていう。同意見ではあるが、怒っている愛姫の前で素直に肯定するのも抵抗がある。
「ぜ、ぜんぜんっ、おかしくありませんっ!」
愛姫としてはそうだろう。しかし、顔を真っ赤にしてむきになればなるほど、麻由にとっては面白い展開なのだ。攻める手を緩めはしない。
「姫様、時代はエコですよ?」
急に真顔になった。もちろん演技だろうが。
「飲用可能な清潔な水をシャワーに使って、そのまま下水に流してしまうなんて、日本人って贅沢ですよね。姫様のシャワー一回分の水があれば、アフリカの貧困地域の子供たちを、どれだけ救えると思います?」
「ぅ…………」
屁理屈とわかっていても反論できずにいる。愛姫が悠樹との入浴に抵抗するのは純粋に感情的な問題であり、それも本音をいえば嫌がっているというよりも、ただ照れているだけなのだ。人道的な理屈で攻められると立場は弱い。
愛姫vs麻由。最初から結果の見えている勝負だった。
「麻由さんには感謝しないとなー」
逃げるようにバスルームヘ入った愛姫に続いた悠樹は、緊張で固まっている愛姫の身体に腕を回し、うなじに唇を押しつけた。白い肩がぴくりと震える。
うなじにキスしたまま、手を、胸の上に置く。
掌にすっぽりと収まる、ささやかな膨らみ。しかし、この感触も嫌いではない。
小さくても形は綺麗だし、膨らみに比例するように小ぶりな乳輪も乳首も、淡いピンク色をしている。そしてなにより、素晴らしく感度がいい。
今の愛姫は、一昨日はもちろん、昨日よりもさらにしらふに近い状態のはずだが、少し触れただけで乳首は固くなり、嗚咽混じりの荒い呼吸をはじめていた。
「ゆ……悠樹さん……、ま、毎日、こんなことをするつもりですか?」
「いやか?」
その問いに対する答えは返ってこない。ただ耳まで真っ赤に染めて、悠樹と目を合わせないようにしている。
愛姫の場合、こうした態度はOKの意味だ。遠慮せずに愛撫を続ける。
呼吸はさらに荒くなり、もじもじと太腿を擦り合わせている。
「誰かさんが、鬼魔のせいだなんていい訳をしなくなるまでは、機会があるたびにするつもりだよ? 本当に嫌なら、そういってくれればやめるし」
そんな発言も、嫌だなんていわれない自信があってのこと。
「…………ま、まだ、瀬田神流とは逢えてないんですよね? そんな状況で私まで拒否したら可哀相すぎますし、よ、欲求不満で性犯罪に走られても困りますから……仕方ないので、わ、私が相手をしてあげます」
かなり無理のある理屈は、悠樹に聞かせるというよりも、自分を納得させるためのもののように思えた。
実際のところ、美咲がいる限り悠樹が欲求不満で困ることはないのだが、それはいわない方がいいだろう。
片手を胸から離し、愛姫の頬に当てて後ろを向かせる。戸惑いの色を浮かべた深紅の瞳は、しかし、嫌がってはいなかった。
唇を重ねる。
躊躇いがちに、しかし応えるように舌を伸ばしてくる愛姫。初めてのキスが鬼魔の力に冒されていた時だからだろうか、そういえば愛姫とは舌を挿れないキスをしたことがない。唇が触れるだけのキスなんて、今さらという気がする。
唇を重ね、舌を絡めたまま、片手は胸への愛撫を続ける。もう一方の手はシャワーヘッドを手に取り、水勢を最強にして愛姫の下腹部に当てた。
「――っ! んっ……んぅんっ!」
びくっびくっと身体を震わせる愛姫。それでも悠樹から離れようとはせず、むしろ悠樹の身体に腕を回してしがみついてきた。
小さな乳首は固くなって、つんと突き出ている。シャワーヘッドを微妙に動かすたびに、愛姫の下半身も同調するように蠢いている。
だんだん呼吸が荒くなってくる。絡めている舌も熱くなっているように感じる。
数分間、そんな愛撫を続けていると、不意に愛姫の身体から力が抜けた。
そのまま頽れて、悠樹の足許に跪く。
シャワーとキスの刺激だけで達してしまったらしい。ちらりと悠樹を見あげる紅い瞳は、どことなく虚ろで焦点が合っていない。普段が凛としているだけに、そんな表情も可愛らしく感じてしまう。
愛姫の視線が移動する。ちょうど、愛姫の眼前に悠樹の股間が来るような位置だ。
頬の朱みが増す。こんな至近距離で目の当たりにするのは、一昨日の夜以来だろう。
もう一度、視線を上に向けた。悠樹と目が合う。なにかを問いかけるような表情だった。
小さくうなずく悠樹。
おずおずと手を伸ばす愛姫。
優しく、包み込むように握る。顔は今にも火を噴きそうな赤さだ。
「硬い……ですね。……絶対、これって大きさに間違いがあると思います。こんな大きなものが……わ、私の中に……なんて……やっぱり信じられません」
驚きと、微かな恐怖が混じった声。
「でも、その大きなものを奥の奥までぶち込まれて、おマンコの中をめちゃめちゃに擦られるのが大好きなんだよな、愛姫は?」
わざと、羞恥心を煽る下品ないい方をする。
恥ずかしがって怒ったような態度をとる愛姫が、たまらなく可愛いから。
案の定、悠樹にきつい視線を向けた愛姫は、悠樹を握っている手に力を込めた。とはいえ、痛いほどではない。むしろ刺激が強まって気持ちいい。
愛姫は、手での愛撫をしばらく続けていた。
慣れていないせいか、それとも羞恥心のせいか、手つきはぎこちない。それだけでいけるほど上手な愛撫ではないが、正気の愛姫が自分の意志で、悠樹のためにこうしたことをしてくれるというのはたまらない。
手でしている間、ずっと至近距離で見つめていた愛姫は、やがて意を決したように、握っているものの先端に唇を押しつけた。
「ん……んぅ……んく…………ぅん」
くぐもった声を漏らしながら、ゆっくりと飲み込んでいく。
唇で締めつけ、舌を、内頬を、押しつけてくる。
強く、吸う。
愛姫なりに工夫していることが伝わってくる。
もちろん、技巧的にはお世辞にも上手とはいえない。口でするのはまだ二度目なのだし、彼氏ができて初エッチを楽しみにしている普通の女子高生のように、事前にイメージトレーニングをしたこともないだろうから当然だ。
それでも、愛姫にフェラチオしてもらうのは気持ちいいと感じてしまう。
一昨日も、今も、悠樹の方から強要したわけではないのに、あの真面目で、セックスに関しては恥ずかしがり屋の愛姫が、自ら進んで口でしてくれているのだ。これで興奮しない男はいない。
それに技術的には拙くても、愛姫の口は気持ちよかった。膣と同じように中はすごく熱くて、強く吸いついてきて、濡れた舌が絡みついてくる。上と下の口の感触は、似るものなのかもしれない。
口への刺激に、愛姫も感じているようだった。頬を紅潮させて、額に汗を浮かべて、瞳を潤ませて、熱い吐息を漏らしながら夢中で頬ばっている。
「気持ちいいよ、愛姫」
そういって頭を撫でてやると、一瞬、嬉しそうに目を細めたように見えたのは気のせいだろうか。
いや、気のせいではあるまい。褒められてやる気も増したのか、唇や舌の動きも少し激しくなったようだ。白く長い指は根元に絡みついて、小刻みに上下に動いている。
「いいよ……口の中に出すから、飲めよ」
嫌がる素振りもなく、こくんと小さくうなずく。
愛姫の頭を両手で掴んで、フィニッシュに向けて自分から腰を前後させる。
こうして動かれるとさすがに少し苦しそうだ。それでも精いっぱい献身的に口を動かし続けている。
普段の愛姫は、万人が認めるほどのクールな美人なのに、こういうところは本当に可愛いらしい。そう実感すると、悠樹ももう抑えられない。
愛姫の口の中で、一気に欲望を解き放つ。
限界まで膨らんだペニスが大きく脈打つのと同時に噴き出す、粘性の高い白濁液。液体というよりも塊のような状態で、愛姫の口中に放たれる。
二度、三度と脈動するペニス。
ねっとりとした白濁液が口をいっぱいに満たしていく。
自分でも、昨日したばかりとは思えないほどの濃さだった。
愛姫は幾分苦しそうな表情ながらも嫌がる様子はなく、すべてを口で受けとめている。
さらに、最後の一滴まで吸い出そうとする。
射精が終わって引き抜いた後も、愛姫はすぐに飲み込もうとはせず、口いっぱいに溜めたままでいた。飲み込むのが嫌とか苦しいとかではなく、むしろ、どことなくうっとりとした表情で、味わうことに夢中になっているように見えた。
「美味しい?」
悠樹に聞かれたところで我に返って、慌てて飲み下す。
「……へ、変な……味、です」
「なのに、吐き出さずに全部飲むんだ?」
「そ、それは……、い、一度口に入れたものを吐き出すなんて、行儀が悪いじゃないですか!」
「まあ、そういうことにしておいてもいいけど」
もちろん、いった本人も納得している理屈ではあるまい。
愛姫は口への刺激だけで完全に腰が抜けているようだったので、両脇に手を入れて、持ち上げるように立ちあがらせた。
下腹部の茂みの奥に手を差し入れる。溢れ出している蜜が悠樹の手をぐっしょりと濡らした。
フェラチオでずいぶん感じてしまったらしい。
「こっちの口にも、飲ませて欲しい?」
「……べ、別に……どうでもいいです」
「じゃ、やめよっか?」
「えっ!?」
意地悪く手を引っ込めると、愛姫は一瞬、美味しいお菓子を口に入れようとした直前に取り上げられた子供のような表情を見せた。
悠樹の笑みに気づいて、慌てて顔を背ける。
「…………悠樹さんって、性格悪いですよね。そういうところ、嫌いです!」
口を尖らせて拗ねたようにいう愛姫。これも貴重な表情だ。
「じゃあ、焦らさずに気持ちいいことしてあげたら、好きになるんだ?」
「――っ!」
真っ赤になって言葉を失う。
しばらくいい訳を考えていたようだったが、最終的に選んだ行動は逆ギレだった。
「ゆ、悠樹さんのいいところなんて、え……えっちが上手なことくらいしかないじゃないですかっ!」
「ふむ……自分の長所を活かそうとするのは、いいことだよな?」
「――っ!!」
再びの失言。
反論が思いつかないのか、怒った顔で口をぱくぱくさせている愛姫を回れ右させて、前屈みに浴室の壁に手をつかせた。
悠樹に向かってお尻を突き出した格好だ。お尻の丸みから太腿にかけてのなめらかな曲線は、神の造形のような完璧な美しさだった。
「ゆ、悠樹さん……?」
戸惑ったように、顔だけこちらに向ける。
そういえば、立ったままするなんて愛姫は初めてかもしれない。
「たまには、こーゆーのもいいんじゃね?」
愛姫の腰を掴んで、下半身を押しつける。
狙い違わず、先端は蜜を溢れさせている割れ目の中心を捉えた。
「ひゃ……んっ!」
愛姫はぶるっと震えて、さらにお尻を突き出してきた。無意識に、自ら迎え挿れようとしている。
「……あっ! ぁ……んんっ! ふあぁ……ぁぁんっ!!」
とろとろにとろけた粘膜の中に、ゆっくりと突き挿れる。
一センチ押し込んで、五ミリ引き抜いて、じわじわと進めていく。
柔らかな粘膜が絡みついてくる。やっぱり、引き抜く時の吸いついてくる感覚が堪らない。
「ふわ……あっあんっ、んあぁぁっ! あっ……はぁぁぁっ!」
じわじわと押し込んでいく時、引き抜く時、その都度、愛姫は切ない悲鳴を上げる。
半分ほど挿入したところで一度動きを止め、一気に根元まで突き挿れた。
「んあぁぁぁぁ――っ! あぁぁぁぁぁ――――っっ!!」
上体が仰け反り、お尻が左右に振られる。
シャワーの湯とは別の液体が、愛姫の股間から滴り落ちた。
奥の奥まで強引に押し込んで、小刻みに腰を震わせる。しばらく続けてから、リズミカルに前後に動かしはじめた。
「あっ、あんっ! あぁぁっ、あぁぁぁんっ!! んくぅっ、……はぁぁぁんっ!!」
悠樹の腰の動きに合わせて頭をがくがくと振り、甲高い声を上げる愛姫。
まったく手加減なしに、一往復ごとにストロークを長く、そして動きを速くして、最奥まで乱暴に突き挿れる。
「あぁぁっ、やぁぁっ! あぁぁ――っ!! ……は……あぁぁっっ! んくぁぁぁ――――っっ!!」
激しく悶える愛姫。相変わらず感じやすい体質だ。
まだ、初体験からまる二日と過ぎていないのに、これだけ激しく突かれて膣でしっかりと感じている。それどころか、自分からお尻を振って、より強い刺激を得ようとしている。
愛姫の脚にはもう力が入っておらず、生まれたての仔鹿のようにがくがくと震えている。悠樹の両手がしっかりと腰を掴んでいなければ、立っていることもできないだろう。
「愛姫、気持ち、いいか?」
「い……いぃっ、イイ……です! あぁぁぁ――っ!!」
理性の抑えも利かないのか、正気なら答えない質問にも素直にうなずく。そうなると、もっと恥ずかしいこともいわせてみたくなる。
「どこが、どんな風にいいんだ?」
「お……おまんこ……が、あぁっ、悠樹さんの……大きな、ペニスでっ、……痛い、くらいに、拡げられて……、ぁんっ! お、奥まで、深く……入ってくると、苦しくて……っ、……でもっ、それが……い、いいんですっ! 中が、いっぱいに満たされて……なんだかっ、すごく……充実感が……あって。あぁっ、ぁんっ! はぁぁぁぁんっ!! か、堅い……ペニスで、中を擦られるたびに、頭が真っ白になって……身体に電流が走るみたいで……お、おしっこがしたいような……むずむずした感覚で……、と、とにかくっ、気持ちいいんですっ!」
「もう、イキそう?」
「も……もうっ! い、いっちゃってます! な……ぁぁっ! 何回もっ!」
首を激しく左右に振って答える。
大きく開かれたままの口からは涎が糸を引いている。下の口も、いやらしい涎を垂れ流し続けている。
膣内は燃えるように熱くて、悠樹に吸いついて離さない。
白い、綺麗な形のお尻がぶるぶると震えている。身体には鬼魔との戦いによる傷痕がいくつも残っている愛姫だが、この部分はかすり傷ひとつなくて、掌で触れると最上の吉野葛のように滑らかに吸いついてくる。
「ひゃあぁぁぁんっ!?」
その中心にある、硬く窄まった小さな菊の花に触れると、ひときわ大きく身体が弾んだ。
中指に力を込めて、指先を押し込んでいく。
「ゆっ、悠樹さんっ……なにをっ!? んぁぁぁぁ――っっ!!」
腰を乱暴に突き出すのに合わせて、指も根元まで挿し入れた。
悲鳴が上がる。
そこも、前に劣らず熱くとろけていた。
「やっ……だめっ、そ……んなっ! あぁぁっ!! あぁ――っ! そん……なところっ! あぁぁぁ――っ!」
「愛姫って、こっちも感じるんだ?」
「そ……そんなことっ! か、感じるわけっ! あぁぁっ!」
言葉とは裏腹に、明らかに反応は激しさを増していた。お尻も、前と同様に指に吸いついてくるようだった。
「いやぁっ! だめっ、だめぇっ! そんなっ! あぁぁっ! やぁ……っ! もっと……っ」
前と後ろを、交互に抜き差しする。
常時、挿入される刺激と引き抜かれる刺激の両方を、同時に感じさせられている状態だ。感じやすい愛姫にとっては刺激が強すぎるかもしれない。
それでも、手加減するつもりはない。愛姫は乱れれば乱れるほど可愛くて、悠樹も興奮するのだ。
だから、攻める手に、腰に、よりいっそう力を込める。
「あぁぁっっ!! だめぇっ、だめっ! あぁぁぁぁ――っ!! いやっ! やぁぁっ! あぁぁぁっ! あぁぁぁ――っ!!」
だめとか嫌とかいいつつ、愛姫は自分でも激しくお尻を振っている。まるで水揚げされたばかりの鰹のようだ。口ではどういっても、一度火がつけば快楽に対して貪欲だった。
激しい動きに、悠樹が受ける刺激も強くなる。ただでさえ愛姫の膣はものすごく濡れやすくて、ぴったりと吸いついてくる名器なのだ。一度出したばかりなのに、またすぐに達してしまいそうになる。
押し寄せる快感から意識を逸らして堪えるために、攻めをさらに激しくする。体重を乗せて腰を叩きつけ、後ろも、中指に加えて薬指も押し込んだ。
「いやぁぁ――っ!! あぁぁ――っ、そっ、そんなぁぁ――っ! あぁっ、あぁぁんっ! だめっ、だめぇぇ――っ!! だ……っ、あぁぁぁぁぁ――――――っっ!!」
既に何度も達してしまったという愛姫だが、ここでひときわ大きな快楽の津波に襲われたようだ。
お尻をさらに激しく振る。これまで以上に強く吸いついてくる。脚もがくがくと震えて、今にも頽れそうだ。
そのピークを狙い澄まして、悠樹も堪えていたものを解き放った。愛姫の胎内に、頂点まで昂った欲望を一気に放出する。悠樹のサイズにあつらえたようにぴったりと吸いついてくる膣内には、噴き出してくる大量の白濁液を受け入れる余裕はなく、行き場のない精液は子宮へと流れ込んでいく。その刺激も、愛姫にとっては快楽の源でしかなく、身体の震えがさらに大きくなった。
そんな状態がしばらく続いて、やがて力尽きたように身体から力が抜けていった。アヌスから指を抜くと、支えを失ったかのようにずるずると崩れ落ちていく。
上体を起こしていることさえできないのか、浴室のタイルの上にぐったりと横たわった。呆けたような表情で、瞳の焦点はまったく合っていない。
完全に脱力した身体。しかし、時折ぴくっぴくっと痙攣を繰り返している。
緩んだ口許。半開きの唇からは涎が糸を引いている。快楽の余韻に浸っている、いやらしい、しかしすごく可愛らしい顔だった。
「気持ち、よかった?」
「……………………ん」
虚ろな表情のまま、微かにうなずく。ということは、まだ理性は戻っていないようだ。
「愛姫って、お尻でも感じるんだ?」
そういうと、急に正気の顔に戻った。
「し……しりませんっ!」
弛緩していた表情筋が強張る。頭に血が昇る。
この反応を見る限り、感じていた自覚はあるのだろう。
「じゃあ、この次はこっちでしようか?」
「そ、それはっ! そ、そんなのっ、い……いくらなんでも、早すぎますっ!」
浴室の床に手をついて、慌てて上体を起こす。
「早すぎるって……いずれはしてもいいってこと?」
「そ、それは……っ!!」
愛姫は複雑な表情を見せた。認めるには抵抗があるけれど、心の奥底では期待している……そんな表情だ。
「ど……ど、どうしてもっていうなら……い、いつかはっ、そういうこともあるかもしれませんけどっ! ……っていうか、悠樹さんならきっと強引にしてしまうんでしょうけどっ! で、でも……いくらなんでも今日はまだだめですっ!」
「じゃ、今日は普通にする?」
「……まだ、するんですか?」
それは拒絶ではなく、ただ確認のための問い。むしろ、それを求めているようにも見える。
「したくない?」
頬の朱みが増して、ふぃっと顔を背ける。
それでも、否定の言葉は出てこない。
「じゃあ、続きは寝室でしようか」
腰が抜けたようにまだ座り込んだままの愛姫を抱き上げる。
うつむいて、悠樹と目を合わせようとはしないが、抗うことなく素直に抱かれている。
この三日間で、ずいぶん素直になったと感じる。初対面の頃に比べたら雲泥の差だ。
やっぱり、肉体的なコミュニケーションは効果的なのだろう。
なのに……
どうして、神流とは相変わらずなのだろう。
――神流に、逢いたい。
不意に、そう想った。
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