悠樹は一度帰宅して、着替えてから大学へ向かった。
 とはいえ、昨日の今日で講義に集中などできるわけがない。寝不足の目をなんとか開けていても、頭の中は神流のこと、愛姫のこと、そして鬼魔のことでいっぱいだった。
 今日は、授業が終わったらまっすぐ嘉~家へ行くことになっている。愛姫から、魅魔の力の使い方と、鬼魔との戦いに必要な知識や技術を教わるのだ。
 なにしろ、相手は超常の力を持つ鬼魔である。生半可な覚悟では生命に関わる。自分から望んだことではないとはいえ、それが必要なことである以上、真剣に取り組む必要があるだろう。
 しかし――
 初日から、大学からまっすぐに嘉~家へ行くという約束をすっぽかすことになってしまった。
 校門を出たところで、黄金色の髪の少女が道端に立っていたのだ。


「か……神流?」
 どことなくふてくされたような表情で立っていた神流は、悠樹に気づくと、その大きな黄金色の瞳をまっすぐに向けてきた。
 向こうも学校帰りと思しき雰囲気だ。
 昨日の朝と同じワンピースのセーラー服に、小さなぬいぐるみをぶら下げた中高生らしいバッグ。昨日と違うのはソックスの柄だけだが、左右の長さが違う点は同じだった。あのソックスには、なにか彼女なりのこだわりがあるのかもしれない。
 もうひとつ昨日の朝と違うのは、首に嵌められたままの深紅の首輪。
 お嬢様女子校の制服に首輪というのも普通に考えれば異質な組み合わせではあるが、金髪、金色の瞳、大きな胸、ぎりぎりの短いスカート、そして左右非対称のソックスという派手な容姿の神流だけに、全体としてはむしろ違和感なく調和していた。
「……久しぶり?」
 強い輝きを放つ瞳を向けて神流がいう。
 その一瞬だけ口元に微かな笑みを浮かべたが、なんとなく不機嫌そうに見えた。口調もどこかぶっきらぼうだ。
 ここで会ったのは偶然ではないだろう。神流が通う学校は悠樹の大学から離れているし、ここは女子学生が学校帰りに寄り道するような街でもない。
 そもそも神流の態度が、明らかに待ち伏せしていた様子だった。
 緊張で身体が強張り、バッグを持つ手に力が入る。中には今朝愛姫から渡された短刀が入っているが、それが役に立つかどうかは怪しい。そもそも他の狼たちはともかく、神流を傷つけることなどできっこない。
「ど、どうしてここが?」
 神流には、悠樹の名前と電話番号、メールアドレスは知られているが、大学や通学ルートは教えていない。
「ん……匂い?」
 ひくひくと鼻を動かしてみせる。
 なるほど、狼だけあって鼻は利くのだろうか。愛姫や高橋の話では、鬼魔は運動能力や生命力だけではなく、視力や聴力、嗅覚といった感覚も、同形の獣を凌駕するほど優れているのだそうだ。
 とはいえ、広い都内で嗅覚だけで悠樹を見つけられるわけがない。そう思ったところで気がついた。昨夜、高橋との会話の中で大学名が出てきている。あの時の神流は意識を失っていると思っていたが、実際には動けなかっただけでこちらの話は聞こえていたといっていた。大学の近くまで来れば、嗅覚で悠樹を見つけることもできるのだろう。
「えっと……ど、どうして?」
「……学校終わったら、なんか、オナカすいたから」
 やっぱり、どこか不機嫌そうな素っ気ない受け答え。それでも愛姫に比べれば、よほど愛想がいいともいえる。
 しかし、悠樹の前に姿を現したのはどうしてだろう。昨夜、嘉~家から無断で逃げ出したのに、また捕らえられるとは考えなかったのだろうか。
 実際のところ、高橋は神流をすぐに捕らえる必要はないといっていた。悠樹の携帯に残された神流の電話番号から、既に神流の素性は明らかになっている。必要となれば、いつでも〈処分〉できるから――と。
 それに、悠樹が神流を抑えられ、人間に危害を加えないのであれば、高橋や愛姫は神流に手出しをしないという約束だ。いわば神流は悠樹を操る人質だ。神流が生きていた方が、希有な魅魔の力を持つ悠樹を操るのに都合がいいのだから、約束を反故にされる可能性は今のところ低い。
「お腹空いたって……その、また、血……とか?」
 微妙に言葉を濁して訊くと、神流は首を左右に振った。
「あ、ううん、そっちじゃなくて。そっちは、別腹。そうじゃなくて、普通に、オナカすいた」
「……つまり……メシをたかりに来た、と?」
「おこずかい前でさ、ちょっとピンチなんだ。……いいっしょ?」
 悠樹を見つめる瞳の色が、微かに濃くなったように感じた。
「あー、まあ、ファストフードとかでよければ」
 財布が許す範囲であれば、女の子にご馳走するのは嫌いではない。相手がとびっきりの可愛い子で、しかも見返りが期待できそうであればなおさらのこと。
 神流と再会したらすぐに連絡するように――そう念を押されていたことも忘れて、素直にうなずいた。
 それが、鬼魔の力で操られたためだと気づいたのは、最寄りのハンバーガーショップに腰をおろした後だった。


 隣の席で、メガバーガーにかぶりついているセーラー服の女の子。
 そんな神流の姿は、可愛くてちょっと行儀の悪い普通の女の子にしか見えなかった。昨日の出来事が、すべて夢ではないかと思えてしまうくらいに。
「神流……お前、その……本当に……狼、なのか?」
 小さな声で訊いた。
 学校帰りの学生で賑わうにぎやかな店内、大きな声を出さなければ、二人の会話を他人に聞かれる心配はまずない。
 姿を変えるところも、大きな傷がたちまちふさがるところも、高い塀を軽々と跳び越えるところも自分の目ではっきり見たのに、こうして日中に制服姿の神流を見ていると、どうにも信じられなかった。
 しかし、神流に昨夜の傷は残っていないようだが、悠樹の腕に残った傷はまぎれもなく現実だ。
「ん……ふぉうふぁよ?」
 神流は口いっぱいにハンバーガーを頬ばったまま応え、口をもごもごと動かした後、コーラで流しこんでからいい直すした。
「……そうだよ? 見たでしょ?」
「見た、けど……」
 やっぱり、信じられない。
 心のどこかで、否定してくれることを期待していたのかもしれない。神流が、普通の女の子であってくれればいいのに――と。
「……ボクも、知ったのはそんなに昔のコトじゃないんだ。ずっと、ちょっと運動が得意な普通の人間だと思ってた。後から知ったけど、そういう例も多いんだって」
 悠樹から視線を外し、どこか遠い目をしていう。
「カミヤシとか……あ、昨日の大きな狼ね。あいつは、ずっと鬼魔の血筋を保ってきた一族だけど、遠い昔に人間と交わって、鬼魔の血も薄まって、人間の中で普通に人間として暮らしている者も少なくないんだ。で、ごく稀に、ボクみたいな〈先祖返り〉が生まれてくるんだって」
「じゃあ、神流の両親も?」
「フツーの人間」
 小さくうなずく神流。
「ボクは〈仲間〉はニオイでわかるけど、母さんは狼の血が混じっていたとしても、ボクでも感じ取れないくらい薄い。父さんも……ボクが小さい頃に死んじゃったけど、消防士で、大きなビル火災で殉職したって聞いてるから、たぶん、違う」
「そうか……」
「だけど……もうじき中学生になるって頃から、かな。なんだか血の匂いに敏感になってきて……仲のいい友達が、なんだか美味しそうに感じるようになって……」
 神流が頬を赤らめる。
 続く言葉を聞く前に、悠樹にはその理由が予想できた。
「ほら……女の子ってさ、毎月、血を流す日があるじゃない? そんな日はもう大変なんだよ? なんていうか……オナカすいている時に、デパ地下の食料品街を歩くような感じ?」
「ふむ」
 わかりやすい喩えだ。
「……で、ある日、もう衝動が抑えられなくなって、わけがわからないままに……」
「殺した、のか?」
 恐る恐る、訊いた。今度こそ、否定して欲しいと想いながら。
 神流はぶんぶんと力いっぱい首を左右に振った。
「しない! そんなこと、しない!」
 強い口調でいう。
「食べるために殺すなんて、そんなの、したことない。ホントだよ、一度も、だよ!」
 必死に訴える。
 その様子は、信じてもいいと思った。
 鬼魔の力で悠樹を操ろうとしているのではない。そんな時は瞳から感じる力が変わるからわかる。昨日今日の経験ではそうだ。
「……ホント、だよ?」
「ん、わかった。信じる」
 そう応えると、神流の表情がぱぁっと明るくなった。
 続いて、頬が紅くなる。
「あ……でも」
「でも?」
 悪戯っ子の笑みで、ぺろっと舌を出す。
「…………えっちな意味でなら『食べた』かも」
「え? あぁ……そういう意味」
 悠樹にもすぐに理解できた。
 女の子が血を流す日とは、つまり、生理だ。神流がその血を口にしようと思ったら、どうするか。
 そういえば神流は女子校だ。由緒ある私立女子校、女の子だけの秘密の花園、そこで繰り広げられる、可愛らしくもいやらしい饗宴――そんな光景を思い浮かべる。
 たしかに、それなら相手を傷つけることなしに、人間の血を得ることができる。
「……ボク、学校ではすっごくモテるんだ」
「そういえば、鬼魔は人間を魅了する能力があるんだっけか。でも、それって同性にも効くのか?」
 昨夜の牡狼は普通に女を襲っていたし、悠樹と違って愛姫は神流になんの魅力も感じていないように見える。
 神流がうなずく。
「どっちにでも効く。でも、普通は異性の方がよく効くみたい。だけど、ほら、ボクも、クラスメイトの多くも、小等部から女子校だから」
「……百合っぽい趣味の子が多い?」
 また、こくんとうなずく。
 つまり、神流のことを恋愛やセックスの対象として見られる相手であれば、魅了することができるということだろうか。
「ねぇ、これってイケナイこと? 無駄に流して捨てるだけの血をもらって、それでボクは力をもらって、お返しにうんとキモチよくしてあげるの。ニンゲン相手じゃあり得ないくらいにキモチいいんだよ? それって、イケナイこと?」
「……いや」
 神流のいう通りであれば、責めるべき点はない。
「…………無理やりじゃなくて合意の上なら、なにも悪くないな。……あ、いや、学校でエッチなことしてたら校則違反とかにはなるかもしれないけど。でも、校則に『校内で女の子同士のエッチ禁止』なんて書いてないか。当たり前すぎて」
 書いていたらウケるな……と想像して、ぷっと噴き出した。神流も笑う。
「みーちゃん……幼なじみで、クラスでいちばん仲のいい子ね。ボクのこと大好きなんだって。お菓子作りが上手で、毎年バレンタインには大きなチョコくれるの。もちろん、ボクがするコトを嫌がったりしない。ううん、みーちゃんの方からおねだりしてくるんだ。ボクも、みーちゃんのコト大好きだし」
「じゃあ、俺のことは?」
 なんとなく、流れで訊いてみた。
 昨日、あんなことをしたし、今日はわざわざ逢いに来てくれたし、好意は持たれていると思うのだが。
 しかし、訊くのと同時に神流の顔から笑みが消えた。初めて見る、真剣な表情になる。
「……よく、わかンない。……ボク、ずっと女子校だし、ひとりっ子だし。だから、男の子と付き合うのとか、よくわかんない。どっちかっていうと、同世代の男の子って、ちょっと……苦手かもしンない。でも、ユウキは……」
 そこで言葉を切り、考えるような仕草を見せる。
「…………よく、わかンない。キライじゃ、ないけど。ユウキの血とか……はすっごく美味しいんだ。こんなの、今まで一度もなかった。だけど、美味しいから好きっていうのは、ユウキが訊いてる『好き』とは違うよね?」
 少しだけ、がっかりした。ふられたような気分だ。
 とはいえ、たしかに、初対面でいきなりフェラなんて、どんなひと目惚れだってあり得る展開ではない。神流は魅魔の血に惹かれただけなのだ。
 しかし、それをいったら悠樹だって、神流に対する想いが本当の意味での恋愛感情かといわれたら確信は持てない。
 単に、魅魔の力に魅了されているだけかもしれないし、それ以前に、悠樹は基本的に軽薄な女好きだ。相手がいやがらない限り、初対面のゆきずりの相手とセックスすることにもなんら抵抗はない。
 だから、神流に本気で惚れているのか、それとも単に可愛いからちょっと気に入っているだけなのか、自分でもよくわからない。
「キライ、じゃないよ? キライな相手に……あんなコトしない。……ユウキは?」
「え?」
「ユウキは、ボクのこと……」
 続く質問は、予想した「ボクのこと好き?」ではなかった。
「ボクのこと……怖い?」
 まっすぐに見つめてくる、大きな目。
 力のある、黄金色の瞳。
 人間を魅了し、狂わせ、操ることができる瞳。
 だけど今は、その力は解き放たれていない。
「……いや」
 少し考えて、悠樹は首を左右に振った。
「すごく驚いたけど……不思議と、怖くはない」
 神流を喜ばせるためだけのでまかせではなく、それは本音だった。
 恐怖は感じない。
 どうしてだろう。人間など一瞬で殺せる魔物なのに。
 あのボス狼と対峙していたら、心底恐ろしいだろう。だけど、こうして神流と肩が触れるほどに接近していても、恐怖は感じない。
「だったら、ボクと……」
 いいかけて、しかし不意に言葉を切った。
「ううん、なんでもない。ボク、帰る。ごちそうさま」
 性急に立ちあがろうとする神流。悠樹は反射的にその手を掴んでいた。
 神流の動きが止まり、こちらを振り返る。
 もとから大きな目をさらに見開いて、その表情は驚いているようにも怒っているようにも見えた。
「……なに?」
 少し、不機嫌そうな声音。
 しかし、そんな顔も可愛い、と思う。
 神流は本当に可愛い。
 だけどそれは、単なる女の子の可愛らしさではない。
 肉食獣の獰猛さを併せ持った可愛らしさ。
 たとえば、ライオンの子供は猫みたいで可愛い。あるいはティラノサウルス・レックスだって、孵化して間もない子供の頃は羽毛に包まれていてきっと可愛かっただろう。
 そんな、可愛らしさだ。
「あ……えっと……その、なんだろ」
 明確な考えがあったわけではない。ただ反射的に手を掴んでしまっただけなのだ。
「…………もし、急ぐ用事がないんだったら……もう少し、一緒にいないか?」
 もっと、一緒にいたい。このまま離れたくない。
 それが今いちばんの望みだと、口にしてから自覚した。
 動きを止めた神流は、掴まれた手を振りほどくわけでもなく、かといって座り直すわけでもなく、少し困ったような表情で悠樹を見ていた。
「それって……ここで? それとも…………ふたりきりでって意味?」
 頬が、紅かった。困惑してはいるが、しかし嫌がっているようには見えなかった。
 悠樹としては、ここは退くべきか攻めるべきか。
 後者だ、と勘がささやく。
 そもそも、異性に対しては基本的に攻めの姿勢で、それで逃げられたら素直に諦めるのが悠樹のスタイルだ。
「ふたりきりだと嬉しいかな。もちろん、神流がいやじゃなければだけど」
「……怖く、ないの?」
「むしろ、怖がるのは神流の方だよな。この構図、普通なら悪い狼に捕まっているのは神流の方じゃね?」
 実際には、人間が狼を襲おうとしているという奇妙な状況だ。
「ボクは……」
 困惑、逡巡、怖気、怒り、そして、いくばくかの期待と悦び。
 いくつもの感情が入り交じった、複雑な表情。
「ボクは……よく、わかンない。男の子とそういうコトって、経験ないし。だから、よく、わかンない。だから……」
 紅い顔で、恥ずかしそうにぷいっと視線を逸らす。
「ふ、ふたりきりになって……それでも、イヤだって感じなかったら……い、イイ……かも……しンない」
 そんな様子を見ていて、悠樹は理解した。
 神流が、急に帰ろうとした理由。
 おそらく、神流も悠樹と同じ想いを抱いていたのだ。
 ふたりきりになりたい。
 昨日の朝にしたようなことをしたい。
 昨日の夜の続きをしたい。
 そう想いつつも、女の子で、しかも男性経験のない神流は、そうした行為に漠然とした恐怖感もあって、だから、自分の中の衝動を抑えきれなくなる前に逃げ出そうとしたのだろう。
 だけど、その前に悠樹に捕まってしまった。
 そして、逃げることを諦めた。
「じゃ、行こうか」
 神流の手を握ったまま立ちあがった。
 店を出ても、神流はその手を振りほどこうとはしなかった。


「へぇぇ、こんな風になってるんだ? 意外とフツー……でもないか。これ、なーに?」
 ラヴホテルに連れ込まれた神流は、妙にハイテンションだった。
 ハンバーガーショップを出てからここまで、緊張しているのか、どことなく不機嫌そうな表情で口数も少なかったのに、部屋に入ると同時に急にはしゃぎはじめた。
 物珍しそうに、部屋中すみずみまで探索している。
 テレビのスイッチを入れてアダルトビデオの映像に顔を赤らめ、冷蔵庫やアダルトグッズの自販機を覗きこみ、洗面所のアメニティを漁り、バスルームからはてはトイレまで足を運んでいる。
「やっぱ、ベッド大きいね。ふたり用だもんね」
 最後にベッドに飛び乗って、そのままごろりと横になった。
 その拍子にただでさえ短いスカートが捲れて、太腿が露わになる。下着が見えそうで見えないぎりぎりの、わざとやっているのかと勘ぐりたくなる絶妙な位置だった。
 おまけに、大きな胸は仰向けになっても存在感を失なっていない。
 悠樹は、下半身に血液が集まっていくのを感じた。
 はしゃいでいた神流は急に黙って、壁の方を見ている。
 壁の鏡に、黄金色の瞳が映っている。
 感情の読めない、硬い表情をしていた。
 それで悠樹は気づいた。神流はかなり緊張しているのだ。それを誤魔化すために必要以上にはしゃいでいたのだろう。
 無理もない。
 まだバージンの、十代の女の子。
 女の子同士でのエッチの真似事の経験はあっても、男とセックスするのは初めて。
 それも、長く付き合った彼氏というならともかく、昨日知り合ったばかりの男が相手。
 なのに、初めてのラヴホテルに連れ込まれている。
 緊張するなという方が無理な状況だ。
 悠樹は自分の初体験のことを想い出した。
 長い付き合いの、お互いのことを知りつくした相手だったが、それでも当時まだ中学生だった悠樹はガチガチに緊張していた。初めてにしては上手くできたのは、年上で経験豊富な相手の女性がリードしてくれたからだ。
 今の悠樹は大学生で、初体験以来、ずいぶん経験も積んできた。今度は自分が神流をリードしてやらなければならない。
 神流が鬼魔、狼だということは考えないことにした。ここにいるのは、まだ幼さの残る、とびきり可愛くて華奢な女の子なのだ。
 ベッドの端に座る。
 神流は壁の方を向いたままだが、微かに身体が強張ったように見えた。
 手を伸ばす。
 いきなり身体に触るようなことはしない。
 指先が触れたのは、深紅の首輪。
 ぴくり、と肩が震えた。
 昨夜から着けっぱなしなのだろう。魅魔の血で鬼魔の力を封印するこの首輪は、愛姫か悠樹でなければ外せない。
「これ、学校にも着けていったんだ? なにもいわれなかった?」
「……友達は、オシャレだね、とか。似合ってる、とか。それもどうかと思うけど。ってゆーか、なんで首輪? あの女、絶対サドだよね」
 それは否定できないかもしれない。
「先生に怒られなかった?」
「怒られるなら、外してくれンの?」
「……ごめん、それは無理」
 魅魔の力を持つ悠樹であれば、外すことはできるだろう。しかし愛姫の許可がなければ、独断で外すわけにはいかない。
「……ウチの学校、服装とか、アクセサリとか、あまりうるさくいわれないから」
「伝統のお嬢様学校なのに?」
「だから。いわなくても、ひどい格好してくる子はいない」
 すると、金髪、ミニスカート、左右非対称の派手なソックスという神流が例外ということか。ただし、金髪は地毛だが。
 他の生徒は、いかにもお淑やかなお嬢さま然とした姿なのだろうか。だとしたら、神流は容姿も言動もさぞ目立つことだろう。だからこそもてるのかもしれない。
「で、どうだ? 初めてのラヴホの感想は?」
「…………これ、恥ずかしくない?」
 壁の鏡を指差す。
「……全部、見えちゃう」
「だからイイとは思わない?」
「……わかンないよ。こんなところで、したコトないもん」
「じゃあ、試してみる?」
 神流の上に馬乗りになり、体重をかけて両腕を押さえつけた。
 首輪を着けたセーラー服の女の子をベッドに組み伏せている姿が鏡に映っている。我ながら興奮するシチュエーションだ。
 神流が硬い表情で鏡に映った自分を見ていた。
「嫌だったら、抵抗していいよ」
「……抵抗っていうか、そうなったら、たぶんユウキは喰い殺されるよね」
「神流が相手だと、こっちも変に遠慮する必要がないところがいいよな。その気になれば俺なんか簡単にはねのけられるんだから」
 悠樹もけっして運動神経は鈍い方ではないが、身体能力では神流の足元にも及ばない。魅魔の力だって、悠樹はまだ自分の意志で使いこなすことはできない。
 だから神流が組み伏せられたまま大人しくしているということは、つまり悠樹を受け入れているということだ。
 横を向いていた神流が、首を動かしてまっすぐに悠樹を見た。
「……今のボク、どんな風に見える?」
「初めてのことで、緊張している。不安がある。だけど嫌じゃない。これから起こることを、期待している部分もある」
 微かに、頬を膨らませる。
「……なんでわかるんだよ。ちぇっ、平然として、可愛くないの」
「俺も緊張してるよ」
「ぜんぜん、そんな風に見えない。それに、どうして緊張すンの? 初めてじゃないんでしょ?」
「どれだけ経験積んでたって、初めての相手とする時は緊張するさ。それが、とびっきり可愛い女の子となればなおさらのこと」
 久しぶりに、神流の口元が微かにほころんだ。
「……ボク、こういうコトするの、初めてだから。昨日のアレは、どうかしてたんだ。普通、あんなコト絶対しない」
 片腕を上げて、指先で悠樹の頬に触れる。
「だけど……ユウキってば、すっごく美味しそうで、頭がくらくらして、わけがわかンなくなって…………。今は、あの時より、冷静。だから、どうしていいのか、わかンない。だから…………ユウキが、して」
 どことなく、拗ねたような表情。だけど、真っ赤になった頬を見れば、それが作った表情だとわかる。
 そんな態度がたまらなく可愛い。
「まかせろ。一応、経験豊富な方だと思うし、体力にもテクにも自身があるから。神流のこと、うんと気持ちよくしてやるよ」
 笑みを浮かべ、軽い、冗談めかした口調で応える。
 しかし実際のところ、内心は台詞ほどに余裕はなかった。
 心臓が痛いくらいに激しく脈打っている。男性器も、破裂しそうなほどに大きく勃起していた。
 神流が魅力的すぎるのだ。
 初めての時を除けば、まだなにもしていない、ただふたりきりで傍にいるだけで、こんなにも興奮させられる女の子は初めてだった。
 やはり、人間を魅了する鬼魔の力なのだろうか。
 少しでも気を抜いたら、湧きあがる衝動のままに襲って欲望をぶつけてしまいそうだ。
 だけど、そんなことはしたくない。
 目の前にいるのは、男性経験のない、年下の女の子だ。
 強引なのはいい。激しいのも構わない。だけど乱暴なのはだめ。それが、悠樹の初めて相手の教えであり、以来、自分に課している大原則だった。
 だから、優しくしなければならない。
 神流を気持ちよくしてあげなければならない。
 上体を倒して、神流の上に覆いかぶさった。小さな身体を抱きしめる。
 胸に当たる、大きな膨らみの弾力を感じる。
 唇を重ねる。
 神流も抗わず、微かに唇を開いた。その隙間から舌を挿し入れる。神流も舌を伸ばしてくる。ふたつの舌が口の中で蠢いて絡み合い、ふたりの唾液が混じり合う。
「ん……んふぅ……んっ、んぅんっ」
 すごく、甘かった。
 昨日も感じたことだが、神流とのキスは、唾液がすごく甘く感じる。濃厚だが、くどい甘さではない。極上の貴腐ワインのような、気が遠くなるほどの美味だ。
 これも、人間を魅了する能力なのだろうか。
 鬼魔によって与えられる快楽は、人間同士のセックスで得られるそれの比ではないという。そして昨夜見たように、人間を喰う時、鬼魔はその相手を犯すことが多いという。鬼魔にとっては、快楽に狂った状態の人間の血肉がいちばん美味なのだそうだ。
 愛姫や高橋から話で聞かされていただけのことが、今は実感できる。神流との性的な接触は本当に気持ちいい。フェラチオやキスはおろか、ただ抱きしめただけでも射精しそうになってしまう。唾液をはじめとして、鬼魔の血や体液は、人間にとって媚薬のような効果を持つらしい。
 しかしそれは、神流にとっても同じだろう。
 悠樹の体内に流れる魅魔の血は、鬼魔にとっては至上の美味であり、この上ない快楽と強大な力を与える。
 だから神流も、貪るように舌を伸ばしてくる。少しでも唇を離すと、不満そうな目を向けてくる。
「血や体液が力の源だとは聞いたけど……それって唾液でも効くのか?」
「…………ん」
 曖昧にうなずいた神流は、もうどことなく朦朧としていた。潤んだ瞳は焦点が合っていない。
「……血とか、昨日の……アレほどじゃないけど。……けっこう、クる。ユウキも……でしょ?」
「ああ、すっげー気持ちイイ」
「じゃあ、もっと、して?」
 神流の瞳の色が濃くなる。
 その言葉は〈お願い〉ではなく、悠樹を操る〈命令〉だった。
 いわれるままに、また唇を重ねた。ただでさえ神流とのキスは気持ちが昂るのだ。そのうえ鬼魔の力に心を囚われては抗えるはずがないし、そもそも抗う理由もない。
 精一杯に舌を伸ばして、神流の口中をくすぐる。応えるように神流の長い舌が伸びてきて、絡み合う。
 お互いの唾液を貪る。
 鋭い犬歯に、舌を噛まれる。その痛みさえ、どうしようもなく気持ちいい。すっかり大きくなりきっている下腹部が、びくんと脈打つ。
 そういえば昨夜殺された女性は、首を喰い千切られながら恍惚の表情を浮かべていた。鬼魔から与えられる刺激は、痛みであってもそのすべてが快楽なのだ。神流に本気で噛みつかれたら、それだけで射精してしまうかもしれない。
 舌から出血すると、神流の興奮もさらに高まったようだ。舌の動きがさらに激しくなる。唾液も血も、一滴も残すまいと吸いついてくる。
 腕を押さえつけていた悠樹の手を振りほどき、力いっぱいに抱きついてくる。悠樹も小さな身体をしっかりと抱きしめる。
 脚の間に身体を入れ、下半身を押しつける。硬く膨らんだ下腹部が、神流の、いちばん敏感な部分に擦りつけられる。
 神流が腰を震わせる。
 まずい。
 本当に、これだけで達してしまいそうだ。ゆっくりと楽しんでいる余裕なんてない。
 今すぐ、神流の中に挿れたい。
 今すぐ、神流の中に精を解き放ちたい。
 そんな衝動がどんどん膨れあがってくる。
 だけど、抱き合ってのキスも気持ちよすぎて、身体を離すこともできない。
「ぁ……んっ、んんんっ! んぅぅぅん――――っ!」
 下半身をひときわ強く擦りつけた神流が、全身をぶるぶると震わせた。
 腕に、脚に、力が入って筋肉が強張っている。
 唇を噛まれる。
 その顎も小さく震えている。
 そんな状態が数十秒間続いて、突然、ふぅっと力が抜けた。
「ん……ふぁわぁぁ……ぁ」
 呆けた表情の神流。
 しまりのない、幸せそうな笑み。
 唇の端から、血の混じった唾液が糸を引いている。長い舌が伸びてそれを舐めとった。
「……もしかして、キスだけで、イった?」
 そう訊くと、はっと我に返る。
 頬が、耳が、真っ赤に染まる。
 まだ羞恥心は失っていないらしい。
「き……キスだけじゃないもん! ユウキが……ユウキの下半身が、すっごくエッチに動くんだもん!」
「イったのは否定しないんだ?」
「う……」
 頬がさらに紅くなる。悔しそうに唇を噛む。
 やや俯き加減で、上目遣いにこちらを睨んでいる。
「そんなに気持ちよかった?」
「…………」
 唇を噛んだままの神流。
 返事はなくても、表情が答えている。そして、表情以外の部分も。
 手を、神流の下半身へと滑らせた。
 一度、膝まで下りて、そこからゆっくりと引き返してくる。
 短いスカートをまくり上げ、内腿を撫でる。
 その、上。
 そこは熱く火照って、染み出すほどにぐっしょりと濡れていた。どれほど気持ちよかったのか、表情以上に雄弁に答えている。
 指を、押しつける。
 割れ目に沿って指先を滑らせる。
 いちばん敏感な小さな突起を探り当て、その上で指を小刻みに往復させる。
「く……ぅんんっ……っ!」
 ぎゅっと唇を噛み、目を閉じて、刺激に耐える神流。しかし、抑えきれない甘い吐息が唇の隙間から漏れはじめる。
 指の動きを速くしていく。
 悠樹にしがみついている手に力が込められ、爪が喰い込んでくる。
 それでも、指の動きは止めない。むしろ指先に力を込めて、速度もさらに加速する。
 神流がまた全身を強張らせる。
 焦点の合っていない瞳から、涙が溢れる。
 小さく開かれた唇が痙攣し、端から唾液が滴り落ちる。
 悠樹が触れている下着は、まるで湯を含んだスポンジのようで、指先で押すと熱い蜜が滲み出してきた。
「また、イったんだ? 感じやすいんだな。もっと、気持ちよくして欲しい?」
 からかうような口調で、耳元でささやく。
 神流の顔は血液が沸騰しているかのように真っ赤だった。恥ずかしがっているというよりも、今にも襲いかかってきそうな獰猛な表情だ。
「……そ、そうだよ! すっごくキモチよかった! だから、命令! ボクのこと、もっとキモチよくしろ!」
 強い口調だが、その言葉に鬼魔の〈力〉は込められていなかった。それが意図的なものなのか、あるいは気持ちよすぎて悠樹を操ることに意識が集中できなかったのかはわからない。
 しかしもちろん、命令に従うことに異論はない。
「それって、最後までしてもいいってこと?」
「…………」
 神流は即答せず、黙って悠樹を睨んでいた。
 そんな反応も予想の範疇だった。男が思う以上に、女の子にとって『初めて』は重大事件なのだ。昨日知り合ったばかりで、恋人同士というわけでもない相手に、簡単にうなずけるわけがない。
 可愛いバージンの女の子が、知り合ったばかりの男に簡単に最後までさせるなんて、普通ならマンガやゲームの中だけの出来事だ。
 とはいえ、今の状況が普通でないのも確かだった。
 愛姫や高橋のいう通りなら、魅魔の血は、どんな媚薬よりも麻薬よりも、神流を狂わせることができる。
 悠樹が神流に簡単に魅了されてしまうように、神流も、悠樹の血は拒絶できない。それが精液であればさらに効果は強く、しかも神流は既にその〈味〉を知ってしまっている。
「い……イイよっ」
 しばらく躊躇していた神流は、ふぃっと横を向いて、ぶっきらぼうにいった。
「……その代わり、うんとキモチよくして。ボクに、いっぱいチカラをちょうだい」
「もちろん、そのつもりだけど。……ところで、あれって口から飲まなくても効くのか?」
「……え?」
 質問の意味がわからなかったのか、神流がきょとんとした顔を向けた。
「……こっちの口に飲ませても、効果はあるのかなって」
 また、手をスカートの中に潜り込ませる。
 びっしょりと濡れた下着の上から指を押しつける。
 神流の下半身がびくんと弾む。
 顔が、火がついたように紅く染まる。
「そ……それは……」
 一度悠樹に向けた顔を、また恥ずかしそうに背けた。
「……むしろ、…………口、より、効く…………かも」
 台詞の後半は徐々にヴォリュームが下がり、最後は蚊が鳴くような声になった。
 それなら、問題はない。
 熱くたぎった欲望を、思う存分、神流の中に注ぎ込むことができる。
 いや、正確にいえば問題がないわけではない。普段の悠樹は、避妊には気をつける方だ。男性経験のない神流が安全日を正しく把握している保証はないのだから、本来、中出しは避けるべきなのだ。
 しかし今は、そんな気を遣う余裕はなかった。
 神流が求めているし、それ以上に、悠樹が望んでいる。
 神流の中に出したい。
 神流の胎内を自分の精液で満たしたい。
 そんな衝動がどんどん膨らんで、抑えられなくなる。
 もう、今すぐ、挿れたい。
 衝動のままに下着を脱がしかけたところで、少しだけ理性を取り戻した。神流の制服は脱がした方がいいだろう。
 伝統ある有名女子校のセーラー服を着せたままの行為にはひどく惹かれるが、そうすると皺になったり汚したりしてしまうだろう。なにしろこの後の行為は、かなり激しいものになるという確信がある。
 昨日の朝、神流を相手にした時の射精の量。
 今の神流の濡れ具合。
 着替えも用意していない状況で、そうした体液で汚してしまうのは問題があるし、かといって汚さずに最後までするのも不可能と思われた。
 それに、制服姿も素敵だが、神流の裸も見たい。
 特に、この、仰向けになっても高さを失わない胸。
 昨夜、全裸の神流を抱きかかえてはいたが、あの時は楽しんで鑑賞する余裕なんてなかった。やっぱり、ベッドの上で組み伏せて見る裸とは違う。
 神流は初めてなのだし、やっぱり、今日のところはちゃんと脱がそう。制服プレイは、そのうち衣替えでクリーニングに出すタイミングにでもお願いしてみよう。
 そう決めて、セーラー服の胸元に手を伸ばした。
 スカーフの下に隠されたボタンを外すと、襟が広く開いて脱がせやすくなる。スカートをまくり上げ、神流の上体を起こしてワンピースのセーラー服を脱がせようとしたところで、ふと、気になるものが目に留まった。
「……神流って、歳、いくつ?」
 そういえば、今まで確認していなかった。小柄で童顔だが胸の発育を考えれば高校生だろう――漠然とそう思っていたが、セーラー服の胸元に留められた級章を見ておやっと思う。
 ローマ数字のU。
 いくら巨乳とはいえ、この子供っぽい神流が高校二年生というのは違和感を覚える。
 そういえば。
 神流が通う私立の女子校は、今は中高一貫校ではなかっただろうか。ならば、高校二年生は『五年生』になるはずだ。
 だとすると、この『U』の意味は……
「……聞かない方が、イイかも?」
 緊張して強張った顔をしていた神流が、ぎこちなく悪戯な笑みを浮かべて小さく舌を出した。
「…………中二? 十四歳?」
「……誕生日、まだ」
「十三歳かよ!?」
 七歳差。
 悠樹にとって、下方向へはこれまでで最大の年齢差。そして、法的、倫理的にいろいろとアウトっぽい年齢な気がする。
 学年はひとつ違うが、十三歳ということは、一緒に暮らしている従妹の美夕と同い年だ。女性に関してはかなりストライクゾーンが広い悠樹ではあるが、美夕はまだ〈子供〉にしか思えない。
 その従妹と同い年の女の子とセックスしようとしている――そう考えると、なんとなく躊躇してしまう。
「……………………ま、まあ……い、いい……よな?」
「……捕まるのはボクじゃないしィ?」
「いい……よな? うん、そういうことにしよう!」
「…………ロリ?」
「ち、ちげーよ! 年齢に関係なく、Bカップ以上はロリとは認めん! うん、だからいいんだ!」
 無理やり、そう結論づける。
 今さら、やめられるわけがない。とにかく神流としたくて堪らないのだ。今すぐ犯さなければ頭がおかしくなりそうなくらいに昂っている。小学生ならともかく、中学生くらいで手を引くわけにはいかない。
「――っ!」
 吹っ切るように、一気にセーラー服を脱がした。
 制服の下は、丈の短いキャミソール。裾から覗くパンツは淡いオレンジ色に、ピンク色の花の刺繍、それに細い黒のリボンで縁どりがされていた。
 キャミソールも脱がせる。ブラジャーはパンツとお揃いの1/2カップ。下着姿になると、胸の大きさがよりいっそう際だった。カップの上に盛り上がるような丸い膨らみだ。
 だけど、身体も手脚も脂肪は少なく、むしろほっそりとしている。ウェストは細くくびれ、腰の位置が高く、身長が低い割に脚はすごく長く、日本人離れしたスタイルだった。
 ブラジャーの上から胸に触れる。手から溢れそうな大きさで、中身がしっかり詰まっているような重量感がある。サイズは65のD……いやEくらいだろうか。
 たいていの女の子に嫉まれそうな体型だ。
「胸、大きいな」
「……中学、入った頃から急に大きくなってきて……。悠樹は、大きい胸って好き?」
「女の子の胸は大小問わず好きだぞ?」
「こういう時は、嘘でも大きい方がイイっていうところじゃないの?」
「大事なのは大きさよりも形と感度だろ? その点では、神流の胸は最高だな」
 ただ大きいだけなら今どき珍しくはない。しかし天然物で、ここまで綺麗な形で、張りのある乳房は初めて見た。
 神流の背中に腕を回し、ブラジャーのホックを外した。縛めのなくなった双丘がぶるんと揺れる。まるでゼラチンを入れすぎた固いゼリーのようだ。ブラジャーの支えがなくてもその形はほとんど変わらない。
 ブラジャーを外されると、神流はさすがに恥ずかしそうに、両腕で自分の身体を抱くようにして胸を隠した。
 そこで、ベッドの上に座っていた神流の肩を押してやる。仰向けに倒れそうになって、神流は反射的に腕を拡げて受け身をとった。
 露わにされた大きな膨らみは、仰向けになっても型崩れしない。
 慌てた神流がまた胸を隠すより先に、上に覆いかぶさって腕を押さえた。もちろん、本気になれば悠樹の力で押さえつけられるはずがないのだが、神流は抵抗せずに組み伏せられていた。恥ずかしさを隠すように、少し不機嫌そうな表情になっている。
「神流の下着、可愛いな。いつもこんな感じ? それとも、なにか期待してた?」
 上下お揃いの点はともかく、真新しい、ただ普通に学校へ行く時に着けるには少々お洒落な下着。
 まるで、デートの時に着けるような。
 それを指摘すると、神流は視線を逸らし、さらに不機嫌そうに唇を尖らせた。
「………………昨日から、ボク、なんかヘンなんだ。昨日の朝、あんなことがあって……それが、頭から離れなくて……昨日の夜も、ぜんぜん眠れなくって、身体が熱くって…………だから……だから、悠樹に逢いに来たんだ」
「俺と、エッチしたいって思ってた?」
「わ、わかんないよ! ただ……ゆ、ユウキって手が早いみたいだし、もしかしたら、そうなるかもって思って、だから、一応……心の準備っていうか、そんな感じで」
「そっか、嬉しいな。俺も、神流に逢いたいと想ってたんだ。逢って、こういうことがしたかった。今度こそ、最後まで」
 胸の先端に、キスする。そのまま、吸う。
 もう一方の胸を、手で揉む。手のひらに吸いつくような滑らかな肌だ。
 小さな乳首をつまんで、軽くひっぱる。立派すぎるほどの膨らみとは対照的に、そこは年齢相応に未発達で、淡いピンク色をしていた。
「ぁンっ! んンっっ!」
 口に含んだ乳首を咬む。
 最初は軽く、だんだん、血が滲むほどに強く。
 唇から漏れるのは、痛みよりも快楽による喘ぎ声。
 神流ならば、そんな傷はすぐにふさがるはずだ。その前に、傷口に自分の唾液を擦り込むように舐める。
「あっ……あぁァ――っ! あァんっ!」
 効果はてきめん。微かに漏れる喘ぎ声は、すぐに切なげな悲鳴に変わっていった。
 滲み出た神流の血を口にしたせいだろうか、悠樹もさらに昂ってきた。もう、我慢できない。
 一度、身体を離して服を脱ぐ。
 悠樹の温もりがなくなったことに対して、神流が不満そうな視線を向ける。
 全裸になって、また、神流を抱きしめる。
 唇を重ねる。
 肌と肌が直に密着する。服の上からの接触よりもずっと気持ちいい。
 神流が、鬼魔だからだろうか。肌の接触が、粘膜同士の接触と同じくらい、いや、普通の人間相手のそれよりもずっと気持ちよかった。
 脚と脚が絡み合う。
 脚を、神流の脚の間に押しつける。温かい、というよりも熱い潤いを感じる。
 その部分に手を触れる。
 神流がびくんっと震える。
 指に触れる下着の感触は、水の中に落としたかのようにぐっしょりと濡れていた。まるで失禁でもしたかのようだ。しかし、不自然なぬめりを感じる。
 これがすべて愛液だとしたら、ありえないほどの濡れ具合だが、魅魔の血を持つ悠樹と、鬼魔の神流であれば、そうしたこともありうるのだろうという気がした。
 濡れそぼった下着を脱がす。濡れて重くなった小さな布を、神流の唇に触れさせた。
 ピンク色の唇と、オレンジ色の下着の間に、透明な粘液が糸を引いた。
「すっげー濡れてるな。感じやすいんだ?」
「……ば……かぁ」
 感じているせいか、恥ずかしくて緊張しているせいか、神流は高熱にうなされているかのように荒い呼吸をしている。
 そんな神流の脚を掴んで、大きく拡げさせる。
 そこは、ほとんど無毛だった。髪と同じ色の産毛が、他の部分よりほんの少しだけ濃くなっている。
 その奥の割れ目も小ぶりで、中は乳首よりも少し濃いピンク色で、まだ幼さを感じさせる未成熟なものだった。
 なのに、微かに白濁した粘液を、文字通り溢れさせている。溢れる液体が染み込んでいた下着が脱がされたために、粘液はそのまま滴り落ちて、シーツの上に大きな染みが拡がっていった。
「や……ダぁ……えっち……」
 可愛らしい割れ目を指で拡げる。
 さらに大量の粘液が溢れ出してくる。ピンク色の割れ目は、濡れて真珠のような光沢をまとっていた。
 指で拡げてみても、その奥の、神流の胎内に通じる入口は指一本すら入りそうにないほどに狭く見えた。緊張した神流が身体を強張らせる度に、その小さな口から熱い蜜が湧き出してくる。
 甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 まるで蜂蜜のような、神流の蜜の匂い。
 きっと、それは蜂蜜よりも甘く美味しくて、神流の唾液よりも悠樹を昂らせるのだろう。
 衝動を抑えられなくなり、悠樹は神流の両脚を抱えるようにして、その中心に顔を押しつけた。
 熱い蜜が湧き出す泉に口づける。溢れ出す蜜を舌で掬いとり、さらに奥へと舌を伸ばす。
「ひぃゃうっっ! んぁんっ!」
 神流の身体が弾む。
 小さな割れ目全体を舐めあげる。
 二度、三度と舌を往復させる。
「ひゃあんっ! ん、はぁぁっ、だ、めぇぇっ!」
 神流はその度に悲鳴をあげ、悠樹の舌から逃れようとするかのように下半身を捩る。
 そんな神流を逃がすまいと、悠樹は太腿を抱えた腕に力を込める。舌の動きを加速する。
 舐めても舐めても、尽きることなく湧き出してくる熱い蜜。その匂いが部屋に充満していく。
 頭がくらくらするほどに甘ったるい匂い。
 なのに不快ではなく、むしろ心地よいと感じてしまう香り。
 口の中いっぱいに、神流の味が広がる。
 舌が、頭が、痺れるほどの官能的な甘さ。それはまるで極上のリキュールか貴腐ワインのようだ。
 身体の芯が、かぁっと熱くなってくる。
 心臓が破裂しそうなほどに早鐘を打ち、男性器ははちきれんばかりに勃起している。
 神流の愛液は、男を狂わせる媚薬だ。それは〈劇薬〉といってもいいほどの破壊力で、悠樹を侵していく。
 劇薬ではあっても、その味は他に比類するものがない至宝だ。トラフグの精巣など比べものにならないくらいたちが悪い。どんなに強い意志を持っても、匂いを嗅いだだけで堪えられなくなる。口にせずにはいられない。
 それを口にすればするほど鬼魔の力に囚われ、抗えなくなってしまうとわかっていても、一度でも味を占めてしまったらもう抑えられない。普通の人間であれば、狂うまで貪り続けるところだろう。
 鬼魔の力に耐性があるはずの悠樹でも、理性を保ち続けるのは難しかった。
 
 ――大丈夫、神流を信じればいい。
 
 自分にいい聞かせる。
 神流は、昨夜の狼たちとは違う。悠樹に危害を加えようとしているわけではない。
 彼女が求めるのは、ほんの少しばかりの魅魔の血と、それがもたらす快楽だけだ。悠樹を殺そうとか、鬼魔の力で操って利用しようとか、考えているわけではない。
 そう、信じる。
 神流は狼じゃない。身体は狼であっても、その心は可愛らしい人間の女の子だ。
 だから、悠樹が今すべきことは、神流を警戒することではない。神流が与えてくれる快楽を貪り、それ以上の快楽を神流に与えることだ。
「ひぃぃっ! イぃっ!! ひゃぁぁんっ! あぁぁぁ――っっ!!」
 割れ目全体を舐めあげ、最後に小さなクリトリスに舌先を引っ掛けるようにして刺激する。
 続けて、その小さな真珠を強く吸う。
「いっ……ひゃぁぅんっ!! いやぁっっ! やぁぁ――っ、だっ、ダメぇっっ!!」
 絶え間なく続く、甲高い悲鳴。
 呼応するように、湧き出してくる蜜。
 その小さな湧口に、指先を押し当てる。
 神流の胎内へと続いている、狭い入口。
 ただでさえ小ぶりな作りなのに加えて、強靱な括約筋のために、指一本でも軽く押しつけたくらいでは押し返されてしまうような感覚だ。
 発育しすぎなほどの胸とは対照的に、男性を受け入れるにはまだ幼すぎるように見える女性器。けっしてロリコンの気があるわけではないのに、そのギャップに興奮してしまう。
 溢れ出す粘性の強い愛液を潤滑剤にして、人差し指をねじ込むようにしてやや強引に挿し入れた。
 第二関節まで挿れると、痛いくらいぎゅうぎゅうに締めつけてくる。
「やっ、あぁぁ――っっ!! んぅ……ぃ……痛ぁ……ぁぁんんっ!」
 ぎゅっと目を閉じて、顔をしかめる神流。歯を喰いしばり、手脚に力が込められる。
 それでも、心底痛がっているという雰囲気ではない。声に甘さが混じっている。
「指一本でも痛いか? 自分で、挿れたことない?」
「ちょ、ちょっとくらいは……あんっ! あるっ、けど……ユウキの指、ボクのより……太い……」
「もう充分すぎるほど濡れてるけど、念のため、もっともっと濡らしておいた方がいいかな?」
「んっ!? や、ぁぁ――――っ!!」
 指を挿れたまま、空いている方の腕で神流の太腿をしっかりと抱え、いちばんの急所にもう一度口づけた。
 舌先でくすぐる。
 唇で咬む。
 そのまま、吸う。
 徐々に、強く。
 最後に、軽く歯を立てた。
「ひぃやぁぁぁぁんっっ!! やぁぁ――っ、……だっっ、めぇぇっ! ボク、ボクぅっ、だめぇっ、壊れちゃう! ふあぁぁっっ、おかっ、しくっ、だぁめぇぇぇ――――っっ!」
 切羽詰まった悲鳴。
 飛び散った飛沫が顔にかかる。
 それでも、攻める手を緩めない。
 舌と唇で執拗にクリトリスを責めながら、指を少しずつ膣奥へと押し進めて小刻みに震わせる。
「だ…………めぇぇっ!! ……死ぬ……しんじゃ……ぁぁぁ――っっ!!」
 収縮する膣壁が、信じられないくらい強い力で指を締めつける。下半身が痙攣して、脚が攣りそうなほどに強張っている。
「だ……っ、だめぇっ!! すっ、ストップ! ちょっとストップ! いやぁぁ――っ!!」
「だぁーめ」
 涙さえ流して懇願する神流に、意地悪く応える。
 神流は本気で嫌がっているのではない。押し寄せる快楽の波があまりにも強すぎて、本能的に恐怖を覚えているだけだろう。
 だから、やめない。むしろ、さらに激しく攻めたてる。
「ここからがイイんだよ。ここでやめたら、本当の快楽を知らないままだぞ?」
「い、いいっっ! 知らなくていいっっ!! ……怖い……あぁぁっ! だ……だめぇぇっ…………っっっ!!」
 神流は強引に悠樹を引きはがすと、上体を捩って俯せになり、這うようにして悠樹から離れようとする。
 しかしもちろん、見逃すわけはない。背後からその腰を掴まえる。
「やっぱり、オオカミっ娘はバックからがいいのか?」
 ベッドの上に俯せになった神流を強引に押さえつけた。膝を立ててお尻だけを突きあげたような、扇情的な姿勢だった。
 もう、一瞬だって我慢できない。
 破裂しそうなペニスの先端を、白濁した蜜を滴らせている割れ目の中に押しつけた。神流は電流に打たれたかのように身体を強張らせた。
 そのまま一気に挿入しようとしたが、なかなか入らない。入口が狭い上に、緊張して全身を強張らせている神流の力で締めつけているせいだ。しかも悠樹はかつてないほどに昂ぶり、いつも以上に大きくなっている。
 強引に挿入しようと腰を押しつける動作が、結果として、硬くなったペニスを神流の秘裂に擦りつける形になっていた。
 神流だって、今の状況でいちばん敏感な部分を男性器で刺激されたら堪らない。
「やぁぁっっ!! やめ……っ、もうっ! だめぇぇ!! おかしくっっ……なっちゃう! いやぁぁ――っ!!」
「……本当に、やめて欲しい? 正直に、本音をいえよ」
 声に、力を込める。
 一瞬、神流の身体がびくっと震えた。
 震える唇が、ゆっくりと開かれていく。
「……ほ……しい……ほ、欲しいのっ! ゆ、ユウキのユウキのおちんちん挿れて欲しいのっっ!! ボクのバージン奪って欲しいのぉっ!!」
 堪えていたものを噴き出すように叫ぶ神流。
「ず……ズルいよ、ユウキ……チカラを使って無理やりいわせるなんて……」
「え……?」
 指摘されて気がついた。
 悠樹の言葉が、神流に今の台詞をいわせたのだ。
 今のが、魅魔の力なのだろうか。狼を、鬼魔を、神流を操る血の力を、無意識のうちに行使したのだろうか。
「……だけど、嘘をいわせたわけじゃないぞ?」
 正直に本音をいえ――と命じた。神流の口は、その命令に従っただけだ。
 あの、挿入を求める悲痛な叫びこそ、神流が今、心底望んでいることだった。
「…………そ、う……だけど……」
 恥ずかしそうに、シーツに顔を埋める神流。
「ほ、欲しい……の。ユウキのを……挿れて……欲しいって、思ってる。……どうして? 初めて、なのに……。ケイケン、ないのに…………それが、気持ちイイって、知ってる」
「それが、女の本能なんだよ」
 悠樹も、もう、躊躇しなかった。
 する必要がない。
 自分が望んでいることを、神流も望んでいる。
 ならば、それをするだけだ。
「……俺も、もう、一秒だって我慢できない。神流の中に、挿れたい。神流のせいだぞ。いくら耐性があっても、これだけ鬼魔の力で魅了されて、我慢できるわけがないだろ。今すぐ挿れないと、頭がおかしくなりそうだ。神流だって、そうだろ?」
「ぅ…………、も、もうっ、好きにしてイイよっ! ゆ、ユウキのことだって、気が狂うくらい気持ちよくしてやるんだからっ!」
「挿れる、ぞ……」
 後ろから神流の腰を掴み、下半身に力を込めて突き出す。
 しかし、簡単には進んでいかない。
「く……きつ……」
 きつい。
 悠樹の下半身はこれ以上はないくらいに硬くなっているのに、神流の入口はそれに抵抗して押し返していた。
 人間など比べものにならない鬼魔の身体能力。括約筋の収縮力も桁違いなのだろう。それに加えて、小柄な神流の性器はもともと小ぶりなのだ。
「い……たいっ、や……無理っ、そんなのっ!」
「神流……ち、力、抜けよ」
「む……無理だよっ! カラダが……かってに……ぃぃっ! そんな……おっきいの……ボクの中になん、て……あぁぁっ!!」
 亀頭の先端をなんとか半分ほど潜り込ませると、さらに抵抗感が増した。
 しかしもちろん、いくら抵抗されようともやめるつもりは毛頭ない。
 なにしろ、ぬめりを帯びた潤滑液が大量に溢れ出しているのだ。力まかせに突貫すれば抑えきれるものではない。
「く……悪い、ちょっと痛いぞ、我慢しろよ!」
 神流の細い腰をがっちりと掴んで、全体重を乗せてぶつけるように下半身を突き出した。
 鬼魔の体液による最淫効果で鋼のように硬くなった肉棒は、その力を受けとめ、最後の抵抗を続ける狭い肉のトンネルを、力まかせに押し拡げていった。
 じわじわと進んでいく。
 その奥が未開の地であることの証である、いちばん狭くなった部分に突き当たる。
「あぁぁっ、や……あぁっっ、入っ、て……きてるっ、むり……無理ぃぃっ!」
 抵抗が強くなり、一度、動きが止まる。
 小さく深呼吸する悠樹。
 意識を、そして全身の力を一点に集中する。
 勢いをつけて、破城鎚を打ち出すように一気に貫いた。
「うぁ……くぁぁっ!!」
「あぁぁっ、あぁっっ!! ああぁぁぁぁぁ――――――っっっ!!」
 神流の純潔を引き裂き、小さな下半身を貫く男性器。
 いちばん奥に突き当たり、そこからさらに、根元まで埋めるように無理やり押し込んだ。
 きつい。本当にきつい。
 悠樹も思わず悲鳴をあげるほどの刺激だった。
 力ずくで握り潰されるような感覚だ。
 なのに、気持ちいい。いや、気持ちいいなどというレベルではない。
 痛いほどに締めつけられているのに、中は適度な弾力を持った襞が絡みついてくるようだ。
 ――いや。
 襞というよりも触手だろうか。
 無数の細かな触手に覆われた膣壁全体が絡みついて、締めつけてくる――そんな感覚だった。
 そして、熱い。
 灼けるように熱い。
 もともと、興奮している女の子の膣内は体温が高いものだが、それ以上に、膣内を満たしている愛液が、まるでトウガラシエキス入りのローションのような刺激を伴って染み込んでくるようだ。しかもその液体は、市販のED治療薬など比較にならない効果で悠樹を昂らせている。
 あまりに昂りすぎて、普段よりひとまわり以上大きくなっているのではないかと思ってしまう勃起。硬さはまるで鋼のようだ。
 なのに、感度はいつもよりずっと敏感になっている。
 そんな状態で、神流の膣は悠樹を狂わせる意志を持った生き物のように蠢いている。
 我慢できるわけがない。
 強引に根元まで押し込んだところで、一気に爆発した。
 悠樹はけっして早漏ではない。むしろ、持久力には自信がある方だ。それでも、神流の中の気持ちよさには耐えられなかった。
 いちばん深い部分で噴き出してくる大量の精液。噴き出すというよりも、破裂して飛び散るような勢いだった。精液でぱんぱんに膨らませた水風船を膣奥で破裂させたら、似たような感覚かもしれない。
 自分が種付馬にでもなったかのような大量の射精。悠樹の欲望が、ねっとりと濃い白濁液となって狭い膣内を満たしていく。
 限界まで拡げられ、悠樹の極太に一ミリも余すところなく満たされた膣。
 そこへ噴き出してくる大量の白濁液。
 行き場のない、液体というよりもゼリーのようなその塊は、固く閉ざされた子宮口を強引にこじ開け、まだ青い果実のように小さな未成熟の子宮を満たし、それでも足りずに卵管にまで逆流していく。
 ビクン、ビクン!
 神流の中で脈打つ肉棒。
 その度に声にならない悲鳴をあげ、全身を痙攣させる神流。
 断続的に吐き出される白濁液。
 いつまでも尽きることがないかのように、力むたびに何度でも噴き出してくる。
 しかも、射精したことで萎えるどころか、むしろ神流の愛液を吸収して、その催淫効果でさらに勢いを増していく。
 大量の射精の衝撃に、悠樹も気が遠くなるほどだった。


 神流が感じていた衝撃は、悠樹以上だった。
 挿入の時、力を抜かなければいけないとはわかっていても、緊張のあまり無意識のうちに力んでしまう。
 収縮した膣が無理やり拡げられ、神流には〈巨大な〉と感じられるほどの異物が侵入してくる。
 じわじわと強くなる、鈍い痛み。
 それが頂点に達した、と思った瞬間、さらなる激痛が神流を襲った。
 純潔が引き裂かれたことを意味する、鋭い痛み。
「あぁぁっ、あぁっっ!! ああぁぁぁぁぁ――――――っっっ!!」
 生きたまま、身体の奥まで太い杭で貫かれる激痛。
 しかしそれは一瞬のことで、次に襲ってきたのは、いいようのない快楽。全身に叩きつけられるような、破瓜の激痛と変わらないほどの衝撃を伴う快楽だった。
 信じられない。
 自分の中に、在る。
 他人の、身体の一部が。
 お腹の奥に、大きな塊を押し込まれたような異物感。
 それは、悠樹の、男性の象徴。
 神流を、貫いている。
 貫いて、犯している。
 熱い。
 胎内深くに打ち込まれた太い杭から、熱いものが噴き出してくる。
 まるで、間欠泉から噴き出す熱湯のよう――いや、もっと熱い。溶鉱炉の中でどろどろに熔けた灼熱の鉄のようだ。
 膣内を満たしていく、熱い奔流。
 狭い膣内だけでは収まりきらず、子宮へと逆流してくる。
 そして、神流の肉体に染み込んでくる。膣の、子宮の、粘膜を構成する細胞のひとつひとつが、悠樹の精液を貪るように吸収していく。
 それは、血よりもずっと濃い〈力〉の塊。
 悠樹の、魅魔の力が、神経を侵していく。
 膣内に熱い強酸を注ぎ込まれたような衝撃と痛み。
 なのに、意識が飛ぶほどに気持ちいい。
 身体中の神経すべてが、快楽の信号だけを発しているかのようだ。
 神経が灼き切れるほどの、脳が処理しきれずに過負荷になるほどの、快楽の奔流が襲いかかってくる。
 心臓が破裂しそう。
 全力疾走している時よりも激しく、心臓が暴れている。
 全身の筋肉が、でたらめに痙攣する。
 括約筋も例外ではなく、それによって、自分の中に在る悠樹の存在を、より強く感じてしまう。
「ひ……ぃっ!、ぁ…………っ、……っ、ぁ……っ!!」
 息ができない。
 悲鳴もあげられない。
 これまでに経験したことのある、自慰や、同性の友人とのセックスの真似事とはまったく異次元の感覚。激痛にも等しい、強すぎる快楽。
 ベッドの上に突っ伏して、シーツを咬む。シーツが裂けるほどに爪を立てる。
 逃げ出したいのに、お尻をしっかりと掴まえられていて動けない。
 ――いや。
 それは詭弁だろう。
 どれだけ体格差があっても、鬼魔と人間。本気を出せば、力で抑えられるわけがない。
 認めたくない本音は、逃げ出したくないから。
 苦痛と感じるほどの激しさであっても、それはたしかに〈快感〉だから。
 最初の、挿入と射精による衝撃は、どのくらい続いただろうか。神流の体感ではずいぶんと長い時間だったが、実際にはせいぜい一分未満だろう。
 最初の衝撃が幾分収まってくる。
 痛みが薄れ、身体に加えられている刺激が〈快感〉であるとはっきりと認識できるようになってきた。
「……っ、ぃん……っ! ぁあっっ! んぁぁんっ!!」
 はっきりと、認識できる。
 自分の中に在る、熱い塊。
 神流の小さな身体には、大きすぎるとしか思えない塊。
 それが、悠樹の身体の一部であること。
 だから、気持ちいい。
 挿れられているだけで、気持ちいい。
 身体が微かに震える、そのわずかな刺激だけで気が遠くなる。
 いきそう、などという生易しいものではない。挿入された瞬間から、神流はずっといきっぱなしだった。刺激が収まってきたといっても、普段感じている〈絶頂〉よりも遙かに高い位置での話だ。
 大きな男性器を無理やり押し込まれて、限界まで拡げられて、泣くほど痛いのは間違いないのに、膣の粘膜が意志とは無関係に蠢いて悠樹に絡みつき、締めつける。
 身体の中に在るものから、熱い精を、至上の快楽を、さらに搾り取ろうとしている。
「……どうだ、神流……奥まで、入ってるぞ。お前の小さなマンコが、俺のものを根元までくわえ込んで、ぎゅうぎゅうに締めつけてるぞ」
 荒い呼吸が背中にかかる。
 まるで、悠樹の方こそ獲物に襲いかかる肉食獣のようだ。狼の雄たちが〈獲物〉の人間を犯している時とよく似た気配をまとっている。
 悠樹の手に、腰に、さらに力が加えられる。
 もう、いちばん奥に突き当たっているのに、さらに強引に押し込まれる。
 胃が、身体の内側から突きあげられるようだった。
「やあぁぁっ! 動いちゃ、だめぇっ! い、痛ぁぁっ、あぁぁっ、また……またぁっっ、来ちゃうぅぅっっ!」
 これまで、同世代の女の子の細い指一本しか受け入れたことのない、狭い膣。
 そこを、何倍も太くて長い男性器で深々と貫かれ、引き裂かれそうなほどに押し拡げられている。
 挿れられているだけで痛い。
 少しでも動いて膣壁を擦られると、悲鳴をあげそうになる。
 なのに痛みのためではなく、気持ちよさのあまり気が遠くなってしまう。
「………………っっ!」
 ふ……っと、一瞬、意識が途切れた。
 しかし、そのまま気を失うこともできない。
 深々と打ち込まれる肉棒。半分ほど引き抜かれて、また、一気に奥まで突き挿れられる。
 激しい痛みと、それ以上に激しい快感。
 強すぎる刺激が、神流の意識を現実に引き戻す。
 気持ち、よすぎる。
 全身が感じてしまう。
 膣壁全体が、クリトリスと同じくらい、いや、それ以上に敏感になっている。
 性器だけではない。身体中、どこを触られても同じくらい気持ちよかった。
 感じているのは、悠樹も同じなのだろう。
 また、熱い液体が噴き出してくる。
 膣を、子宮を、熱い精の塊が満たしていく。
 それでも、神流の中に在る悠樹の分身は勢いを失わない。むしろ、どんどん大きくなっていくようにすら感じてしまう。
 身体の内側から、破裂してしまいそうだ。
 なのに、それすらも、いい。
「ぃやぁぁぁぁっっ、だめだめぇぇっ、ちょ……やあぁぁっっっ、動いちゃ……あひゃあぁんっ、ちょ……とでも、擦られたらっ! ま……たぁぁっっ! イィっ……だめぇぇっっ!」
「ンなこといって、うぅっ……自分から締めつけて、腰振ってんじゃねー! う……くそっ! まただっ! 出すぞッ!」
 お腹の中のものが、大きく脈動する。
 ひとまわり、膨らんだように感じる。
 そして、また、身体の内側から灼かれる感覚。
「やぁぁぁ――――っっ! お、男の子って、こうなのっ!? ホントのセックスって、こんあぁぁっ! すっすごいのぉぉ――っっ!?」
「ンなわけ……ねぇぇっ! 神流っ、お前だから、だろ! お前が特別なんだよ!」
 苦しそうに呻きながら、しかし、さらに腰を突き出してくる悠樹。
 神流は悲鳴をあげて大きく仰け反る。
「ち……がうよぉっ! ユウキのせいだよっ! み……みーちゃん、こんなっ、すごくなかった……もんっ!」
 限界まで仰け反り、全身を痙攣させ、やがて力尽きたようにベッドに突っ伏す神流。
 下半身がびくびくと痙攣している。
 それでも、まだ、終わらない。
 激しい絶頂に満たされ、精根尽き果てても、まだ、満足はしていない。終わりにしたくない。
 もっと、もっと、したい。
 もっと、もっと、犯されたい。
 もっと、もっと、注ぎ込んで欲しい。
 悠樹も同じ想いなのだろう。何度射精しても、動きを止めない。むしろさらに勢いを増して、神流の身体を貪り尽くそうとしている。
 考えてみれば、当然のことだ。
 神流の鬼魔の力は、人間を魅了し、昂らせ、至上の快楽を与える。
 悠樹の魅魔の血は、鬼魔を魅了し、昂らせ、強大な力を与える。
 その力は神流の魅了の力をさらに強め、よりいっそう悠樹を昂らせる。
 そうして放たれた精は、神流をさらに興奮させる。
 際限のない正のフィードバックで、力と、快楽が暴走していた。
「こわっ……こわれっ……ふひゃぁぁぁんっっ! だめだめだめぇぇっ! とめてぇっっ、ゆ、ユウキぃぃっ、もうダメッだめっ、そんなっ! そんなにぃぃっ! 突いちゃらめぇぇっっっ!! しんじゃう……ひんひゃうぅっっ! ボク……しんじゃうぅぅ――――っっ!!」
「おっ……まえこそっっ! オレ殺す気かっ! あぁぁっ! う……わぁぁっ! そんな……締めつけて、中が蠢いて……っ!」
 このままではお互いに危険かもしれないと思っても、自分の意志では止められない。
 神流の膣は悠樹をしっかりとくわえ込み、吸い付き、締めつけ、離そうとしない。
 悠樹の分身は、むしろどんどん奥へと進もうとしている。
 やめようと思っても、止まらない。いや、そもそも本気でやめようという気にならない。たとえ、このまま続けていては身体がもたないとわかっていても。
「……くそっ、こうなりゃヤケだ!」
 開き直ったように、悠樹がさらに勢いを増す。
「や……っ!? やぁぁんっ!」
 脚を掴まれて、身体を仰向けにひっくり返された。悠樹を締めつけている膣が捻られる。
「神流……っ!」
 上から覆いかぶさってくる悠樹。骨が軋みそうなほどにしっかりと抱きしめられる。
「やぁぁっ、ゆ、ユウキぃっ!!」
 神流も、悠樹にしがみつく。腕だけでなく、両脚も悠樹の身体に回した。
 深く結合したまま、汗ばんだ肌と肌が密着する。
 さらに、感度が増していく。
 触れ合っている肌が、すべて、クリトリスよりも敏感な性感帯になってしまったようだ。
 神流と密着したまま、腰を打ちつけてくる悠樹。
 応えるように、下半身をくねらせる神流。
 その動きで、結合部だけでなく肌全体が擦れ合う。性器同士の接触と変わらない刺激が神流を襲う。
「いやいやいやぁぁっ!! ユウキっ、ユウキぃぃっっっ!! ………………!」
 お互い、動きを加速させていく。
 唇を重ねる。
 唇を、舌を、咬まれる。
 悠樹の唇を、舌を、咬む。
 滲み出る血を貪り合う。
 ほんの数滴の深紅の液体が、お互いを狂わせる。
「ま、また……あああぁぁぁぁ――――――っっっ!!」
 身体の中に在るものが、一瞬、膨らんだように感じた。
 次の瞬間、膣奥を襲う、小さな爆弾が破裂したような衝撃。
 悠樹にしがみつく腕に力が込められる。
 全身が、意志とは無関係に痙攣する。
 今度こそ、意識が遠くなる。
 それでも二人は休むことなく動き続けていた。


「……ぅ……ぁ?」
 正気を取り戻した悠樹は、ベッドの上で神流と並んで寝ていることに気がついた。
 いつの間にか結合は解けていた。神流は悠樹に背を向けて、身体を丸めて眠っているように見える。それでも温もりを惜しむかのように、背中を悠樹に押しつけていた。
 意識を失っていたのだろうか。
 壁の時計を見ると、神流の服を脱がしている時にちらりと見た記憶から、長針が二周以上回っていた。
 それでもぐっしょりと濡れたシーツが冷たくなっていないところを見ると、意識を失っていたのはほんのわずかな時間なのだろう。
 心拍もまだ速いし、神流の呼吸も寝息にしては荒い。はっきりとした記憶は残っていないが、ほとんど意識もないような状態のまま、ずっと行為を続けていたのだろうか。
 乱れたシーツは、バケツでぬるま湯を撒いたかのようにぐっしょりと濡れている。
 汗なのか、それとも感じすぎた神流の潮吹きか。あるいはこれ全部が愛液だといわれても信じられる気分だ。
 そんなシーツの中心部に残る、小さな紅い染み。
 神流の、破瓜の印。
 見ていると、落ちつきかけた鼓動がまた速くなってしまいそうだ。
「……あー、とりあえず、生きててよかった」
 意識を逸らすようにつぶやく。
 これまで経験したことのない、激しいセックスだった。あのまま、本当に死ぬまでやり続けることになるかと思った。している最中は、そうなってもいいとさえ思っていた。
 そうなる前に、鬼魔の血による催淫効果のピークを越えたのか、それとも、動きが激しすぎて抜けてしまったために快楽の連鎖から抜け出せたのか、それはわからない。
 しかし、まだ完全に収まったわけではない。
 頭は正気を取り戻してはいるが、神流の粘液で濡れたペニスは、いまだ最高潮に勃起したままだった。あれだけ激しい行為で、あり得ないくらい大量に何度も射精したのに、まだいくらでもできそうな気がする。全裸で眠っている神流を見ていると、また、下半身がむずむずしてくる。
 今すぐ、眠っている神流を犯してしまおうか――そんな想いが湧き出してしまう。その衝動を抑えるには、少なからぬ精神集中を必要とした。
「おーい、神流、生きてるかー?」
 わざと、ふざけた口調で神流の頬を突っつく。
「……ン、ぅん…………」
 長い睫毛が揺れ、瞼がゆっくりと開かれる。
 悠樹を魅了し狂わせる、大きな黄金の瞳。しかし今はぼんやりとして焦点が合っていない。
「……ぁ……んん? んにゃぁ…………」
 狼というよりも仔猫のような声を出して、ベッドの上で伸びをする。
 手で顔を擦る。
 それからようやく悠樹の存在を認識し、自分が全裸で異性の前にいることに気づいて赤面した。
 照れ隠しなのか、怒ったようにいう。
「い……ったぁ……、もぉ…………ホントに死ぬかと思った……この、人殺し」
「生きてるうちにいう台詞じゃないよな」
「……うるさい。初めての、イタイケな中学生相手に、なに、あの激しさ? もーちょっと手加減できないの?」
「できねーよ、神流のアソコ、気持ちよすぎるもんな」
「――っ!」
 一瞬、言葉を失う神流。顔の赤みが増す。
「……し、しかも、魅魔の力、全開だし! あれ、ヤバイって。手加減してくれないと、ホントに死んじゃうよ?」
「それをいったら神流だって、鬼魔の力使いまくりだったろ? どんなドラッグよりもヤバいぞ、アレは。その首輪、力を抑えるんじゃなかったのか? こっちは人間なんだから加減してくれよ」
「そ、それもユウキのせいだよ! ユウキの血とか……あ、アレのせいで、すっごくチカラが強くなってンだもん! 慣れるまで抑えきれないよ。首輪つきでこのチカラなんだから、ユウキが気をつけてくれないと」
 愛姫や高橋の話では、愛姫と悠樹の二人の魅魔の血で封印した首輪は、鬼魔の力を大きく削ぐはずだ。なのにこれだけの力となると、封印なしならいったいどうなってしまうのだろう。
 考えてみれば、昨夜も首輪つきのままで愛姫の結界を気づかれもせずに突破しているのだ。
「こっちも、魅魔の力なんて制御できねーよ。初心者なんだから」
 使いこなすことができれば、鬼魔を思いのままに操ることができるという魅魔の能力。
 しかし、悠樹にはその使い方がわからない。先刻、神流を操って本音をいわせることができたが、もう一度同じことができるかどうかも自信はない。
 魅魔の力を使いこなせれば、神流の力も制御できるのだろうか。なんとかしないと、神流とのセックスが毎回これでは本気で生命に関わりそうだ。
 本当に、あり得ないほどの激しさだった。
 そんなことを考えて、ふと、喉の渇きを覚えた。大量の発汗と射精で、体内の水分はかなり失われているのではないだろうか。
「……喉、乾いたな。神流もなにか飲むか?」
 立ちあがって、冷蔵庫を開けた。
 スポーツドリンクを取り出す。本当はビールといきたいところだが、この後、愛姫のところへ行く予定だったことを思いだして諦めた。神流とホテルに来ていることでただでさえ大遅刻なのに、赤い顔をして愛姫に逢うなんてできるわけがない。
「……神流?」
 返事がないので、訝しんで振り返る。神流はどこかぼんやりした様子だ。
「神流?」
 はっと我に返る神流。
「う、ううん、なんでもない! ゆ、ユウキのが飲みたいなんて思ってないよ!」
 いってしまってから、慌てて口を押さえる。
「だ、だから、そんなこと思ってないってば!」
 必死に取り繕う様子に、思わず口元がほころんだ。
 冷蔵庫から冷えたジュースを取り出して、神流の頬に当ててやる。ペットボトルを受け取って口をつける神流は、睨むような上目遣いでこちらを見てるが、頬は真っ赤だ。
「あれだけ飲んだのに、まだ足りないのか? 欲張りだな」
 呆れつつも苦笑してしまう。
「そ、そんなことないもん! ほんのちょっと思っただけだもん! ……今日は、口でしてないから……でも、昨日のアレもちょっとよかったなぁ、とか、ほんのちょっと、思っただけだもん。それに、あ、あっちの口とは別腹なんだもん!」
「そうか、別腹なのか。じゃあ、上の口にも飲ませてあげなきゃな」
 神流からペットボトルを取り上げ、ベッドに押し倒した。
 ジュースで濡れた唇を指先でなぞる。
 その指先に神流が噛みついた。
「……ってゆーか、ユウキだって、実はもっと飲ませたいんでしょ? あんなにしたのに、お、おっきいまんまじゃん!」
「誰かさんの力は、きっとバイアグラよりも効くんだよ。……飲んでくれるか?」
「…………ゆ、ユウキがどうしても飲ませたいっていうんなら……ちょっとくらい、イイよ」
 精いっぱい強がる様子が可愛い。
 言葉とは裏腹に、期待しているかのように舌が唇を舐めた。
「……ボクのクチも、気持ちよくして?」
 この可愛らしいピンク色の唇を、どろりとした白濁液で汚したい。この小さな口を精液でいっぱいに満たしたい。
 そんな衝動が込みあげてくる。
 神流の両手を押さえつけ、顔の上に跨るような姿勢になった。硬く反り返った剛直を神流の唇に押しつける。
 口でしてもらうのではなく、強引に口を犯す体勢。
 神流も自分から口を開いてくわえるというよりも、ねじ込まれるのをただ受け入れているという態度だった。
 感情を隠した大きな瞳が、上目遣いに悠樹を見つめている。
 ゆっくりと、腰を突き出す。
 窄められていた唇が押し拡げられ、はちきれんばかりの男性器を飲み込んでいく。
 濡れた口内の感覚。
 熱い。
 神流の唾液は、まるで劇薬のような刺激を与えてくる。
 なのにやっぱり、それが堪らなく気持ちいい。
 舌が絡みつく。内頬の粘膜が擦りつけられる。
 それらも、膣と同じくらい熱く火照っていて、同じくらい気持ちいい。
 小柄な神流の小さな口。あまり激しくすることはできない。めちゃめちゃに犯したい衝動を必死に抑えて、ゆっくりと腰を突き出していく。
「んぅ……ン、ぐ、ぅん……んふぅ…………んぐぐぅ、ぅんっ」
 極太に口を塞がれて、くぐもった呻き声を漏らす神流。
 沸騰した血液で満たされたペニスは、口の奥まで達してもまだまだ長さを残していて、先端は喉へと押し込まれていく。
 呻き声がさらに苦しそうになる。見開かれた目は涙で潤んでいる。
 苦しそうではあるが、しかし、本気で嫌がっている様子はない。黄金色の瞳はどこか焦点が合っておらず、むしろうっとりとした恍惚の表情に見えた。
「う……ぁ、はぁぁ……」
 一ミリも余すところなく神流の口中に挿入したところで、感極まったような溜息が漏れた。男を悦ばせるテクニックが優れているわけではないのに、なんて気持ちがいいのだろう。
 唇に根元を締めつけられる。
 内頬としたがぴったりと押しつけられ、心地よい圧迫感を与えてくる。
 そして亀頭を飲み込んだ喉は蠕動とともに苦しげに蠢いて、えもいわれぬ刺激を加えてくる。
「すげ……やっぱ、神流の口もすげーイイ。お前も気持ちいいか?」
「ん……」
 口と喉を塞がれて声を出せない神流は、首を小さく縦に振った。その微かな動きも、気が遠くなるほどの刺激として伝わってくる。
 この、動き。
 この、口の感触。
 もっと、感じたい。
 神流の頭を両手で掴み、腰を押しつけた。
 強引に押し込んで、小刻みに揺する。
 フェラチオしてもらうのではなく、一方的に口を、喉を、犯す。
 ペニス全体が刺激される。
 唇、歯、舌、頬、そして喉。
 部位ごとに微妙に異なる刺激。
 これまで経験したことがないくらい気持ちいいというところだけが共通点だ。様々な刺激がブレンドされて、より強い刺激となって快楽中枢を貫く。
「んふっ……んぅっ、ぅっ、んぐっっ……ぅぅ……っ!」
 神流も顔を真っ赤にしている。
 喉を塞がれて苦しいからではなく、間違いなく気持ちいいからだろう。
 見ていれば、触れていれば、伝わってくる。凶悪なまでの勃起に喉を犯され、普通ならば苦しいであろうことをされて、なのに神流がどれほどの快楽に包まれているのか。
 だから、悠樹もどんどん気持ちよくなっていく。神流の唾液が、さらに悠樹を狂わせようとしている。
 もう、我慢できない。今にも達してしまいそうだ。
 先端から、少なからぬ精液が混じった先走り液が滴っている。それが神流をさらに興奮させ、口の粘膜を、性器と変わらぬ感度の性感帯に変えていく。
 悠樹は口を犯しながら、腕を身体の後ろに回して神流の下腹部に触れた。
 予想に違わず、そこは蜜を滴らせるというよりも、噴き出しているような状態だった。悠樹が腰を揺するたびに、飛沫が飛び散っていく。
「んんん――――っっ!? んぅっっ、ぅんぐぅぅっっっ!!」
 神流の中に、人差し指と中指を揃えて押し込んだ。
 びしょ濡れの秘裂は思いのほかスムーズにその挿入を受け入れたが、次の瞬間、収縮して痛いほどに締めつけてきた。
 指の骨が軋むほどの痛み。それを誤魔化すために、指を乱暴に動かす。
 指先で膣壁を擦る。
 神流の下半身が痙攣する。
 喉も蠢いて、さらに締めつけてくる。
「は……あ、すげーな、神流の身体……どこもかしこも気持ちよくて、どこもかしこも感度最高で、気持ちイイだろ? いけよ、思いっきりイケよ!」
「ンぐぅぅ――っ!! んんんっ! んんんんぅ――――っっ!!」
 神流の肉体は、悠樹の言葉に従って一気に絶頂を迎えた。
 同時に、悠樹の中を熱い衝撃が突き抜ける。
 喉を貫いていた肉棒を、半分ほど引き抜く。そこで、抑えていたものを解き放った。
 下半身が震える。
 二度、三度と脈打ち、その度に欲望の塊が噴き出して、神流の口いっぱいに拡がっていく。
 小さな口を満たし、白く濁った雫が唇の端からこぼれたところで引き抜いた。
 しかし、射精はまだ止まらない。立て続けに迸る白濁液が神流の顔に降りそそぎ、唇を、鼻を、頬を、瞼を、そして髪を白く汚していく。
 口の中に出した量以上の熱いマグマを噴き出して、神流の顔をべっとりと汚して、欲望の噴火はようやく治まった。
 大きく息を吐き出す。身体から力が抜ける。
 神流もぐったりとしているが、しかしどことなく満たされたような表情だ。
 何度も喉を鳴らして、口の中を満たしているものを飲み下していく。
 それが済むと、舌を伸ばして唇の周りを彩っている白濁液を舐めとっていく。
 長くて器用に蠢く舌。人間の姿の時も、そこは狼っぽい。
 舌の動きは妙にエロティックで、見ているだけで興奮してしまう。と同時に、神流が女子校で同性にもてることを納得してしまう。人間を魅了し興奮させる鬼魔の能力を抜きにしても、この舌で膣の中まで舐められたら女の子は堪らないだろう。
 舌の届く範囲がすっかり綺麗になると、神流は悠樹の顔を見た。ぐったりと力の抜けた身体とは対照的に、瞳を爛々と輝かせた満たされた表情。なのに、まだなにかを期待しているような視線。
 神流がなにを望んでいるのかは、すぐに理解できた。
 手を伸ばして、頬を汚している精液を指先で拭いとる。その指を神流の唇に運ぶ。
 母親の乳首に吸いつく仔犬のように、音を立てて夢中で指を貪る神流。
 その間に、空いている方の手で反対側の頬を拭ってやる。綺麗に舐めとられた指と入れ替わりに、その指をくわえさせる。
 神流はさらに勢い込んで吸いついてくる。
 鼻、瞼、額、そして髪。
 顔中すっかり綺麗になるまで繰り返す。
 美味しそうに、そして気持ちよさそうに悠樹の指を舐める神流。
 指を舐めさせている悠樹も気持ちよかった。人間の女の子にフェラチオしてもらっているのと変わらないような感覚だ。
 また、昂ってしまう。
 神流も、お尻の周りのシーツがぐっしょりと濡れている。
 
 だから――
 
 今日いちばんの笑みを浮かべた神流の上に、悠樹はまた身体を重ねた。

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