お兄ちゃんの部屋は、大学の近くに建てられた学生向けのアパートだった。大学までは、自宅からでも通えないことのない距離なんだけれど、独り暮らしの方が気楽だって言っていた。
ここに来るのは初めてだった。
独り暮らしの男子学生の部屋にしては、片付いているように思う。そういえば昔から几帳面な性格で、小学生のあたしが散らかした部屋を、いつも綺麗に掃除してくれていた。
久しぶりに会うお兄ちゃんはやっぱり優しくて、ずぶ濡れで震えているあたしのためにお風呂の用意をして、すぐ入るように言ってくれた。
「でも、お兄ちゃんもずいぶん濡れてるよ」
優しいお兄ちゃんは、ここに来るまでの間、あたしに傘を差し掛けてくれていた。そのせいで、反対側の肩のあたりはかなり濡れている。
「じゃ、一緒に入ってもいいか?」
「うん♪」
冗談めかした台詞に、あたしは素直にうなずいた。
あたしにとっては、ごく当たり前のことだった。小学生の頃、特に低学年の頃には、よく一緒にお風呂に入った……というか、入れてもらっていたのだ。
だから、なにも気にせずに返事をした。戸惑ったような表情を見せたのは、お兄ちゃんの方だった。
まあ、よくよく考えてみれば。
あたしももう中学生。実の兄妹でも、一緒にお風呂に入るような年齢ではないかもしれない。だけどあたしはまだまだ子供っぽいし、別に構わないんじゃないかなって思った。
「あたしのせいでお兄ちゃんが風邪ひいたらヤダよ。一緒に入ろ?」
「……うん、じゃあ、舞衣ちゃんがいいって言うなら」
なんだか恥ずかしそうに、お兄ちゃんが服を脱ぎはじめる。あたしも服を脱ぎ初めて、そこでおやっと思った。
小さい頃は当たり前だったはずのことが、妙に恥ずかしい。お兄ちゃんの前で裸になるという行為が。
お兄ちゃんに背を向けて、素速く服を脱いだ。背中に、お兄ちゃんの視線を感じる。あたしは先に浴室に入って、お湯の中に身体を沈めた。
熱いお湯の刺激が、冷えきった身体に心地よい。じんわりと、身体の中に熱が浸透してくる。
少し遅れて、お兄ちゃんが入ってくる。あたしは浴槽の端に寄って場所を空けた。
アパートの狭いお風呂は、二人で入るとかなり窮屈だった。
お湯がざぁっと溢れ、身体が密着する。ちょうど、背後からお兄ちゃんに抱きしめられているような体勢になった。
懐かしい。
昔はよく、こうして一緒にお風呂に入ったものだ。
だけど、少し恥ずかしい。
それは、以前は感じることのなかった感情だった。
「えへへ……あったかい」
あたしはわざと、お兄ちゃんに身体を寄せて体重を預けた。この、不可解な感情を振り払おうとするかのように。
「……でも、こーゆーのってやっぱマズイんじゃないか?」
お兄ちゃんが言う。
小学生の頃ならともかく、中学生になった女の子が、気軽に男とお風呂なんて入っちゃいけないって。
「い、いいもん。どうせあたし、まだ子供だし」
いまだに、私服だと小学生に間違われることもある。中学の制服は全然似合っていない。
そんなことをお兄ちゃんに話した。お兄ちゃんは昔から背が高くて大人っぽかったから、こんな悩みとは無縁だったろう。
「でも舞衣ちゃんだって、ずいぶん大人っぽくなったじゃん」
「そんなことないよ。嘘ばっかり」
あたしはぷぅっと頬を膨らませた。そんな見え透いたお世辞、信じられない。
「ホントホント。おっぱいだって膨らんできたし」
「きゃっ」
お湯の中で、お兄ちゃんの手が胸に触れた。そのまま大きな手のひらで、あたしの小さな乳房を優しく包み込む。
「お尻も丸みを帯びて、女らしくなってきたし」
「ひゃんっ!」
もう一方の手が、ウェストからお尻を撫でる。
「もぉ、お兄ちゃんのエッチ!」
「ほらね、こーゆーとこ触られて「きゃっ」とか言うのは、ちゃんと女として成長してきた証拠だよ。オレは久しぶりに舞衣ちゃんに会ったから、ずいぶん女らしくなっててびっくりした。自分じゃ毎日見てるから気づかないだけなんだよ」
「そ、そうかなぁ」
お兄ちゃんは優しいから、あたしを元気づけようとしてそう言ってるだけじゃないだろうか。まだ、そんな思いが拭い去れない。
「証拠もあるよ。ほら」
「……あ」
強く、抱きしめられた。二人の身体が、より強く密着する。
あたしのお尻に、なにか当たるものがあった。少し考えて、それがなんであるか思い当たった。同時に、顔がかぁっと火照ってくる。
お兄ちゃんがあたしの手を取って、それに触れさせた。
「これ、何かわかる?」
「……ん」
小さくうなずいた。
男性器。お兄ちゃんの……ペニス。
それはびっくりするくらい大きくて、硬い弾力があった。そっと握ってみると、ビクビクと脈打っていた。
頬が熱くなる。
「大きくなって、硬くなってるだろ?」
「……う、うん」
勃起する、っていうんだっけ。
「どうしてこうなるかは知ってる?」
「……お、男の人って、エッチな気持ちになると……大きくなるんだよね?」
「正解」
「え? でも……だって、どうして?」
あたしと一緒にお風呂に入って、勃起している。エッチな気持ちになっている。
それはつまり……でも、まさか。
「どうして? そんなの決まってるじゃん。魅力的な女の子と一緒にお風呂に入って密着して、それで勃起しない男がいたら、そりゃインポかゲイだけだよ」
「えっと……だ、だって?」
突然のことに、頭が混乱して考えがまとまらない。
「昔は、一緒にお風呂に入ってもこんなことなかったよな。今の舞衣ちゃんがちゃんと女らしくなってるから、オレはエッチな気持ちになってるんだよ」
「ほ、ホントに? お兄ちゃん……ホントに?」
「本当に、まだ自分が子供だと思ってんの? じゃあ俺が、舞衣ちゃんのことをオトナにしてあげようか?」
「え?」
「言ってる意味がわかる?」
「……」
もちろん、わかっていた。
この状況で「オトナになる」っていえば、ひとつしか思い浮かばない。
セックス、すること。
お兄ちゃんとセックスして、アタシのバージンをあげること。
「ほ……ホントに?」
お兄ちゃんは本当に、あたしみたいな子供とセックスしたがっているのだろうか。だけどそうでなければ、手の中にあるものの大きさと硬さは説明できない。
「舞衣ちゃんのバージン、俺にくれよ。……嫌か?」
「え……えっと」
あまりにも急な展開に、あたしは狼狽していた。
例えば、実の兄にいきなり「エッチしよう」なんていわれたら、びっくりするのが当然で。
今のあたしは、ちょうどそんな状態だったわけで。
だけど冷静に考えてみれば、あたしとお兄ちゃんはただのお隣さんの幼なじみ。血のつながりはない。
恋人同士になったり、エッチしたり、結婚したとしてもなんの問題もないのだ。
考えてみる。
もしも、お兄ちゃんがあたしの恋人だったら?
今まで、考えたこともない。だけどそれは、考えれば考えるほど、素敵なことのように思えた。
ハンサムで頭がよくて、頼りになる大学生。
もちろん、お兄ちゃんのことは大好きだ。今までのそれは、妹が兄に対して抱くような好意だったとしても。
それに。
あたしはまだ中学生なのに、年上の恋人がいて、もうエッチも経験済みだなんて、なんだか格好いいような気がする。
バージンじゃないってことが、いかにも大人っぽいことのように思えた。
多少の不安はあったけれど、正直に言って「したくない」という気持ちはなかった。なにしろあたしも十四歳、エッチなことに興味津々の年頃だ。ただ、まだ心の準備ができていなくて戸惑っているだけだ。
だから、お兄ちゃんさえ本気なら。
「お兄ちゃん……」
「ん?」
「あ、あたしを、お兄ちゃんの恋人にしてくれるの?」
「舞衣ちゃんさえよければ、そうしたい」
耳元でささやかれる。そのまま、耳たぶに唇が押しつけられた。
くすぐったくて身体を捩る。
心を決めた。
考えてみれば、先刻から胸やお尻を触られ、ペニスを握らされているのに、そのことを少しも嫌だと思っていないのだ。むしろ、心地よくさえある。
そういえば小さい頃、「大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる」と言っていたことがなかったか。それを現実とするための第一歩を、踏み出してもいいのではないか。
あたしは、握った手をゆっくりと動かした。お兄ちゃんが微かな声を漏らす。
「すごく……大きいよね。こんなに大きいのが、あたしの中に入るの? 信じられないなぁ。初めてって、やっぱ痛いんだよね?」
それがちょっと不安だ。初体験はしたいけれど、痛いのは嫌だ。
「やっぱり、嫌?」
お兄ちゃんの声は、どことなく残念そう。
だから。
「……あんまり痛くないように、優しくしてくれたら」
深呼吸をして、思い切って言った。
「いいよ、エッチしても。あたしのこと、オトナにして」
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