第3章【4】

 昼食後、街まで出てきたついでに、ちょっと気になっていた映画を観ていくことにした。
 近くのビルの最上階にあるシネコンへ足を運ぶ。
 だけど、この選択は間違いだったかもしれない。
 昨日の今日で、玲と二人で落ち着いて映画など観ていられるだろうか。
 否、できるわけがない。
 暗がりで二人並んで座っていると、むくむくと悪戯心が頭をもたげてきてしまう。
 観ていた映画が、ちょっとアダルトな雰囲気のラヴストーリィだった影響もあるかもしれない。
 視線はスクリーンに向けたまま、そぅっと玲の方へと腕を伸ばす。ミニスカートの裾から伸びている太ももに触れる。
「ひゃっ……」
 小さな悲鳴を上げ、びくっと身体を震わせる玲。
 そんな反応を横目に見ながら、手を上の方へと滑らせていく。
「な、……なにするのよ、セイのエッチ!」
 この反応は称賛に値する。不測の事態でも女口調は忘れていない。
 しかしもちろん、そんな苦情は無視だ。内腿を指先でくすぐるようにゆっくりと撫で、下着に触れる。
 そこはもう固くなっていて、熱を帯びていた。先端は女物の小さな下着の上から顔を覗かせている。その部分に直に触れる。手のひらでそぅっと包み込む。
 手を小刻みに上下に動かすと、玲は込みあげてくる喘ぎ声を必死に抑えていた。
「レイちゃんってば、ビンカンだね。可愛いー♪」
「な……なによ、セイだって……」
 玲の手が、あたしの下半身へと伸びてくる。
 そうした反撃は十分に予想していたことだ。
 ――だけど。
「――っ!」
 心の準備はしていたことのはずなのに、一瞬、本気で声を上げそうになった。
 予想していたよりもずっと気持ちよかったのだ。
 太ももに触れられただけなのに、まるで濡れた性器に直に触れられたかのようだった。
「や……だ……っ!」
 手が、スカートの中に入ってくる。
 下着の上から触れてくる。
 エッチな割れ目をなぞるように、指を滑らせる。
「――っ! ん……っ!」
 ヤバイ。
 マジ、声、出そう。
 スカートの中に潜り込んだ玲の手をぎゅっと掴まえる。それでも指の動きは止まらない。あたしのいちばん敏感な一点に押しつけられた指が小さな円を描く。
 じんじんと痺れるような快感。
 身体の奥から染み出してくる蜜。
 冗談ですませられる段階はあっという間に通り過ぎてしまっていた。
 こうなったらもう、反撃しかない。
 玲のものを握っていた手に少し力を込める。リズミカルに上下に滑らせる。
 玲がきゅっと唇を噛む。
 手の中のものがいっぱいに膨らんでくる。
「…………ぁっ」
 玲の指が、下着の中に潜り込む。蜜があふれている割れ目をひと撫ですると、中指をあたしの中に挿れてきた。
 にゅるん、という感触で簡単に飲み込まれてしまう指。
 第二関節くらいまで挿入したところで、中で指を曲げて膣壁を刺激してくる。
 身体の内側の粘膜を擦られるたびに、嗚咽が込み上げてくる。腰が勝手に動いてしまう。
 玲の指は的確に、あたしが感じる部分を集中攻撃していた。初めて関係を持ってからまだ三日目とはいえ、本番はもちろん口による行為もしない分、手での愛撫は必要以上に経験している。お互い、相手のどこをどうすれば感じるかはしっかり把握ずみだ。
 あたしも必死に反撃したけれど、どうにも形勢は不利だった。声を出せないこの状況が辛い。
 家でしている時も、どちらかといえばあたしの方が声が大きかった。いくら玲が女っぽいとはいえ、これはやっぱり男と女の違いなのかもしれない。
 だけど今は、間違っても声を出すことはできない。
 それが、こんなにも辛いことだなんて知らなかった。昨日も一昨日も、している時はいくらでも声を出すことができたから。
 失敗した。こんなこと始めなきゃよかった。
 声を出せない。ただそれだけのことが、こんなにも辛いとは思わなかった。声が出せない分、吐き出すことのできない快感が身体の中に溜まって膨らんでいくような気がした。
「……れ、レイ……」
 玲のものを握っていた手を放し、服を掴む。
 降参の意思表示。
「……出よ。…………我慢できない……声、出ちゃう」
 あたしの手に、玲の手が重ねられる。
「よかった……あたしももう、出そうだった。……声じゃないものが」
 お互い、顔を見合わせて同時に苦笑した。

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