鏡像双姦

by 西崎やまねこ

第3章【1】


「眠……」
 翌、土曜日――
 眠い目をこすりながら起きあがると、時刻はもう十時を回っていた。
 ひどい寝不足だ。
 全身が、単なる寝不足や運動による疲労とは違う倦怠感に包まれている。
 そして恥ずかしい話ではあるが、
 
 ――エッチな部分がひりひりと痛かった。


 昨夜は夕食もそっちのけで、母さんが帰ってくる夜中近くまで玲と抱き合って、エッチな行為を繰り返していた。
 何度、達してしまっただろう。
 何度、玲をいかせただろう。
 結局、帰宅してから夜中近くまで、休みなしに続けていたような気がする。何度しても……、いや、すればするほど、もっとしたいという気持ちが高まる一方だった。
 母さんが帰ってきて、しぶしぶ身体を離して玲が自室に戻った後も、当然、すぐに眠ることなどできなかった。
 昨夜同様、身体の火照りが、精神の昂りが、いつまでたっても治まらない。
 横になって目を閉じると、触られていた感触がリアルに蘇ってきてしまう。なにもしていなくても、エッチな声が漏れてしまう。微かに動く唇にも、キスの感覚が残っている。
 とても眠るどころではない。
 手が勝手に、下半身へと動いてしまう。
 玲に弄られすぎて痛いくらいなのに、それでもまだ触ってしまう。
 昂りすぎた身体はすぐに達してしまうが、それでもまだ眠れない。すぐにまたむずむずしてきて、指が動き出してしまう。
 結局また、明け方近くまで自慰を繰り返してしまった。

 のろのろとした動作で顔を洗う。
 玲はひとあし先に起きていたようで、朝食を食べていた。あたし同様に眠そうではある。
「……母さんは?」
「もう出かけた。今日も出勤だって」
「え」
 それはつまり、今日も二人きりってこと?
 休日だというのに、一日中、二人きり?
 一日中、思う存分、やりたい放題?
 ――なんて、
 また、いけないことを考えてしまう。
 これはよくない傾向かもしれない。
 あたしってば、この状況を喜んでいる。また、玲と気持ちいいことができることを。
 これではすっかり中毒だ。
 だけど、少し控えるべきかもしれない。
 昨日さんざん触られ、その後もひとりでしていたせいで、あそこがひりひりしている。この状況でまた昨日みたいなことをしたら、いったいどうなってしまうのだろう。
 いくらなんでも、のめり込みすぎるのはよくない。
 とはいえ、
 家に二人きりでいたら、きっとしたくなってしまう。いや、本音をいえば今の時点でもうしたくてたまらない。間違いなく、してしまう。
 家に二人きりでいたら――
 そこで、いいことを思いついた。
「レイ、今日ヒマ?」
「え? ……ん、特に予定はないけど?」
「じゃあ、一緒に出かけない?」
「え?」
 パンをくわえたまま、玲が顔を上げる。
「……女装して」
「えぇっ?」
 さすがに慌てた様子で、くわえたパンを落としそうになる。
「な、なんでっ?」
「だって、本番ではあの格好で衆人環視の舞台に上がるんだよ? 今から女の子の格好で人前に出ることに慣れておかなきゃ。度胸づけってことで」
「いや……まあ……、でもさすがに恥ずかしいというか……。それに、バレたらどうする? 舞台の上なら女装もアリだろうけど、ふつーに街歩いていてバレたら……」
「女装趣味のヘンな人、と思われるだけでしょ」
 笑って応える。
「セイっ!」
「大丈夫。バレないって。つか、あんた、バレると思う? あの外見で?」
「……バレない、だろうね」
 玲も現実を素直に認める。
「でしょ?」
 他人にばれるなんて、ありえない。服を脱がしでもしない限りは。
 女装した玲は、あたしとの違いを見つけるだけでも高難易度の間違い探しなのだ。性別を疑われるなんてありえない。確かに、あたしはやや長身で、胸は小振りでどちらかといえば中性的な顔立ちではあるけれど、それでも男の子と間違われるような外見ではない。
「だから……行こ? このまま二人で家にいると……その……また、ヘンなコトしてしまうそうでさ。いや、するのは全然いいんだけど、つか、ぶっちゃけ今日もしたい気持ちはあるんだけど、毎日毎日そればっかりにのめり込むのも、健全な高校生としてはよくないかなぁ、とかね」
「……うん、まあ、昨日なんてちょっとハジケすぎな気はしたけど」
「「…………すごく、気持ちよかったけどね」」
 ふたつの声が重なる。
 ふたり揃って、昨夜のことを想い出して赤面する。
「で、さ、買い物もあるから、ついでに」
「……ん、いいよ」
 そうして今日は、生まれて初めての「姉妹でお出かけ」をすることになった。

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