第2章【11】

「んんっ……んくっ?」
 玲が驚いて目を白黒させている。
 文字通り、あたしのすぐ目の前、ほんの一、二センチの距離で。
 乱暴に唇を重ね、口の中を満たしている粘液の半分を、舌で押し込むようにして玲の口中に流し込んだ。
 柔らかな感触。口の中で舌が触れ合う。
 二人の舌が絡み合い、白濁液と唾液をかき混ぜる。
 ……そういえば、初めてだ。
 昨日は、キスはしなかった。もちろん、今日も。
 だけどファーストキスではない。あたしにとっても、玲にとっても。
 夢中で舌を絡めながら、初めてのキスの記憶を久しぶりに想い出していた。
 
 あたしのファーストキスの相手は、玲。
 玲のファーストキスの相手は、あたし。
 まだ小さかった頃の話だ。幼稚園か、せいぜい小学校の低学年だろう。
 今でも仲のいい両親は、当時はさらにラブラブで、子供の前でも行ってらっしゃいのキス、ただいまのキスを欠かさなかった。そんな環境では子供たちが真似をするのも当然のことで、二人にとってキスはごく当たり前の、姉弟のスキンシップだった。
 実はディープキスも小学生の頃に経験ずみである。どこからか「ディープキス」という知識を仕入れてきて、純粋に好奇心から試してみたというわけだ。
 ただし、ディープキスの経験はそれ一度きり。
 それをきっかけに、姉弟での「普通の」キスもしなくなってしまった。
 舌を触れ合わせるその行為が、すごく気持ちよかったから。
 気持ちいいが故に「いけないこと」をしているのだと感じてしまったのだ。

 そう、これはいけないことだ。
 あまりにも気持ちよすぎる。
 何年ぶりかの、二度目のディープキス。
 それはやっぱり……いや、あの時の何十倍も、何百倍も感じてしまう。
 口が、すごく敏感になっている。性器並みに気持ちがいい。
 あたしは夢中で玲の唇を、舌を貪った。玲もあたしに同じことをする。
 考えてみれば、ベッドの上で身体を重ねて密着している今の体勢もかなりエッチだ。
 いったいどのくらいの時間、そうしていたのだろう。口の中から精液の味がすっかり消えたところで、どちらからともなく唇を離した。
「ん……ぁ、はぁ……」
 微かに栗の花の匂いのする吐息。
 唾液が二人の唇の間に糸を引く。
 虚ろな目をした、呆けたような玲の顔が目に入る。半開きの口のまわりは精液混じりの唾液でべとべとで、ひどくエロティックだった。
「……レイってば、すごくエロい顔してる」
 それはまるで、鏡に映った自分の顔を見ているみたいで妙に恥ずかしい。
 恥ずかしいけれど、いや、だからこそ、見ていて昂奮してしまう。
「……セイのえっちぃ」
 唇が力なく動く。濡れた唇が、まるで誘っているように見えた。
「…………」
 やだ、あたしってば。
 また、身体の芯が熱くなってきている。
 女の子の部分がむずむずしてくる。
 ……また……したい、してもらいたい……かも。
 射精したばかりの玲のものも、また大きくなっていた。お腹の下に押しつけられている、固い弾力を感じる。
 やっぱり、我慢できない。
 ちょん、と軽く触れるキスをする。
「もう一回……しようか? レイは、したい?」
「え……、う、うん。もちろんしたい……あ、でも」
 玲の声を遮るように、突然音楽が鳴りだした。あたしの携帯の着信音、母からのメールだ。
「……もー、いいところなのに」
 キスで気持ちが高まって、これから……というところだったのに水を差されてしまい、あたしは唇を尖らせた。ぶつぶつ言いながらベッドから起きあがり、机の上に置いてあった携帯を手に取る。
 ボタンを押してメールの本文を読む。と同時に、尖っていた唇がにんまりとした笑みに変わった。
 玲を振り返る。
「母さん、残業で遅くなるから晩ゴハンいらないって」
「え……」
 玲の顔にも、抑えきれない笑みが浮かんでくる。
 両親は二人とも仕事が忙しいので、平日の夕食の支度は主にあたしと玲の仕事だった。玲がさっき言いかけた「でも」も、続く台詞は「そろそろ夕食の支度しないと」だろう。
 だけど今夜は母さんの帰りが遅い。
 父さんは昨日から一週間の出張中。
 そこから導き出される答えはひとつだけ。
 二人は顔を見合わせてにやっと笑う。
 それは秘密を共有する共犯者の笑み。
 
 その夜――
 あたしたちは母が帰ってくる夜中近くまで、何度も何度も行為を繰り返した。

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