意識が戻っても、あたしはしばらくぼんやりとしていた。
全身が倦怠感に包まれて、なんだか自分が『たれぱんだ』にでもなってしまったような感覚だ。
なのに、心臓の鼓動だけは妙に速い。
目の前に玲の顔があった。仰向けに寝ているあたしを、どことなく不安げな表情でのぞき込んでいる。
「……レ、イ…………」
「セイ…………大丈夫?」
「ん……あんまり……大丈夫じゃ……ない、かも」
あの、気の遠くなるような快楽の絶頂を迎えてから何分くらい過ぎたのだろう。長く眠っていたような気もするが、まだ心臓はばくばくと脈打っているし、全身が汗ばんでいて、シーツが湿っぽい。それもお尻の下あたりが特に。これは汗だけじゃないような気がする。
「……あたし…………イっちゃった……すっごく、気持ちよくて……激しくて」
「……うん。セイってば、すっごく激しく感じてたね」
玲も安心したのか、くすっと笑うとからかうような口調で言った。
「……なによ、莫迦」
腕を伸ばして玲を掴まえ、引き寄せる。そのまま体を入れ替え、ベッドの上に仰向けになった玲に馬乗りになった。太腿の上の方にまたがった状態で、玲のミニスカートはまくれ上がっていて、すぐ目の前に大きな男性器がそそり立っていた。
「セイ……?」
「……ありがと、めっちゃ感じた。ヤダもう……」
感じすぎて、目に涙が滲んでいた。手の甲で拭いながら、すん、と鼻を啜る。
「ここも、こんなになってる……」
自分の下半身に手をやると、そこは濡れているなんてどころじゃなくて、大洪水だった。割れ目の中はもちろん、お尻も、太腿のつけ根周辺も、茂みも、ぬるぬるの粘液に覆われている。
それを、自分の手に塗りつける。その手で、目の前に生えている玲の分身を包み込んだ。
「ん……ふぅんっ」
「いっぱい感じてね、レイちゃん♪」
手の中のものが、びくっと震える。
すごく熱い。
玲は戸惑いと不安と、そして期待の入り混じった表情であたしを見上げている。
本当に女の子にしか見えない。しかも困ったことに、とびっきり可愛い女の子。
「こうして見ると、レイの顔ってめっちゃ可愛いね」
「……セイがぼ……、あたしの顔を褒めるのって……自画自賛って言わない?」
「もちろん、そのつもりだけど?」
笑って応える。
性別は違っても、女装した玲とあたしは一卵性双生児で通用するくらいにそっくりだ。
「ずうずうしい」
「それとも、あたしってキレイじゃない? それってレイ、自分の容姿を貶めることになるよ?」
「もちろん、あたしはとびっきりの美人だけど?」
玲もふざけた口調で笑う。
「はい、よくできました」
ご褒美、と言って玲のものを握った手を動かす。すぐに玲の顔から笑みが消えて、切ない吐息が漏れてくる。
――さて。
ここからは本気だ。
あれだけ気持ちよくしてもらった以上、玲も同じくらい感じさせなければならない。そうじゃなければ、なにか負けたような気がしていやだ。
そのためには、どんな風にすればいいのだろう。
先ほどの行為を想い出す。
あたしの性器は、その内部に男性器を挿入される器官で、その代用品として指を挿入されてすごく感じてしまった。
で、手の中のこれは、女性器に挿入するべき器官。膣の粘膜に包まれた状態で動かすと気持ちよくなって、射精に至るはず。
それを擬似的に再現すればいいのだ。
両手で包み込むようにして、優しく握る。根元から先端まで、全部。
自分の愛液でぬるぬるになった指を絡めて、手を上下に動かす。
固い弾力が伝わってくる。
「……こう? こんな感じで、気持ちよくなる?」
「あっ……はぁっ……う、ん……っ」
訊くまでもなかった。
玲は恥ずかしそうに顔の上半分を腕で隠して、半開きの口からは女の子のような甘い吐息を漏らしている。
濡れていた方が気持ちいいだろうと思い、自分の蜜を何度もすくい取っては玲に塗りつける。ぬるぬるになったペニスを両手で擦る。
力加減が難しい。
どのくらいがいいのだろう。
あまり力を入れないと、感じないだろうか。
力を入れすぎてぎゅっと握ったら、痛いだろうか。
なんといってもここは男の子の急所なのだ。細心の注意を払うに越したことはない。
先っぽの、亀頭と呼ばれる部分は少し柔らかくて、繊細そうな気がした。だけどその分、敏感そうでもある。ここは優しく、だけど念入りに愛撫した方がいいだろう。
根元の方はすごく固くて、ここは少しくらい力を入れても平気そうだ。むしろ、優しい刺激では物足りないかもしれない。
そんなことを考えながら、指の一本一本、それぞれに力加減を変え、リズミカルに手を上下する。
玲の反応を窺いながら、全体に少し力を加えたり、緩めたり、手を動かす速度を速めたり、遅くしたり。
全体的な傾向としては、だんだん力を強く、動きを速くしていく。
時々、潤滑液を追加する。本来は濡れた膣に挿入するものなのだから、指だって濡れている方が気持ちいいに違いない。
幸い、あたしのそこも乾く気配はまったくなかった。玲への性的愛撫に、それをしているあたし自身も昂奮していた。玲の顔が可愛くていやらしくて、見ているだけでエッチな気分になってしまう。
それにしても、妙な気分だ。
目の前で、エロ可愛い顔で喘いでいるのは、どう見ても女の子。
しかも、あたしと同じ顔の。
まるで、自分自身のあられもない姿を見ているような気分になる。
だけど手の中にあるのは、紛れもない男性の象徴。
これまでネットの中の写真や動画でしか見たことがないものだけれど、ここにあるのは紛れもない現実、実体だ。体温があり、脈があり、あたしの手の動きに反応している。
以前見た、無修正の動画の記憶を呼び起こす。そのAV女優を真似て、指を絡めて、上下運動と捻るような回転運動をミックスした動きで愛撫する。
単なる上下の往復運動だけだった時よりも、玲の声が高く、切なくなる。手の中のものがさらに固くなる。
さて。
あの動画ではこの後、口でくわえたり、胸に挟んで擦ったりしていたけれど、さすがに口なんて無理だ。
指とは違う。上か下かの違いはあっても、それは男性器を身体の中に受け入れる行為なのだ。いくらなんでも姉弟でそこまでやってしまったら冗談では済まない気がする。
それをいったら今の状況が冗談で済むのかどうかも微妙なところではあるが、あたしの感覚では、手による愛撫と口による愛撫の間には高い壁がある。
手と同じく皮膚による接触である『パイズリ』なる行為にはそうした抵抗感はなく、試してみたい気持ちもあるのだけれど、残念ながら、谷間にものを挟めるほどにはあたしの胸は大きくない。
結局、今のあたしにできることは手での愛撫だけ。
それだけで玲を気持ちよくしなければならない。自分の蜜で濡れた手で、玲のものを擦り続ける。
「ね……レイ?」
手の動きを止めずに訊く。玲の表情を窺いながら。
「……こんな感じで、気持ちイイ?」
「うん……うん……っ、あ……はぁぁ」
紅潮した顔。切なげな声。
その返答は嘘でもお世辞でもないと思われる。
「レイってば、昨日の夜、自分でしてたでしょ?」
「え…………、う、うん」
「それと今と、どっちがいい?」
「い……セイの手の方が……いい……。ずっと、いぃっ!」
その一言で、思わず頬が緩んでしまう。
「このまま続けてたらイケそう?」
「うん……っ、いいっ……もう少しで……あっ! いっちゃう……よぉ……」
よしよし。
あたしは満足げにうなずく。どうやら、かなり感じているようだ。
嗚咽混じりの切なくて甘ったるい声。
潤んだ瞳。
紅潮して汗の浮かんだ顔。
時々、なにかを堪えているかのように噛みしめられる口。
そして、はちきれんばかりになって反り返っているペニス。
どれも、玲が本気で感じていることを示している。
「シャセイ、しそうになったら言ってね」
そう言って、手の動きを加速する。少し力を入れて、先端から根元までまんべんなく大きな動きで刺激する。
「あっ……あっ……あぁっ! ……セイぃっ、いいっ!」
手の動きに合わせるように、玲の腰も上下に動いている。
そういえばあたしも、気持ちよくなったら知らず知らずのうちに腰が動いていた。
あたしのそれは、より深く迎え入れようという動き。
玲のこれは、より深く突き入れようという動き。
今は本当のセックスじゃないから、二人の性器はつながっていないから、あたしは腰の代わりに手の動きを激しくする。
「あぁっ! あぁっ! んっ……く……う、あぁんっ! だ、だめっ……もうっ!」
ひときわ大きな叫び。いよいよその時だろうか。
スカートを汚した昨日の反省から、右手の掌で先端部を覆い隠すように包み込んだ。左手一本だけで最後のひと擦りをする。
「あぁぁぁっっ!」
玲の身体が仰け反り、腰が突き出される。
同時に、熱い感覚が右手を襲った。
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