第2章【8】

 あたしはまだバージンだ。
 ひとりエッチの時も下着の上から触れることがほとんどで、指を中に挿れることは滅多にない。
 もちろん少しだけ試してみたことはあるけれど、それよりも入口やクリトリスに触れている方がずっと気持ちいいというのが正直な感想だった。
 だけど今は、玲にその行為をされることに対して、これまで感じなかった期待感があることは否めない。
 玲に触れられることは、ひとりエッチよりもずっと気持ちがいい。ならば自分の指ではあまり感じなかった挿入も、玲の指ならもっと気持ちいいのではないだろうか。
 若干の不安感、恐怖感はあるが、それでもやっぱり『挿入』という行為には興味がある。それはより本物のセックスに近い行為なのだ。ちゃんと膣内で気持ちよくなりたい、という想いがある。
 だから、玲の申し出を断ることはできなかった。
「一本だけ、なら……。お願い、そっと……ね」
「う、うん……」
 入口の部分に、指先が押しつけられる。
 それは小さな円を描くように動きながら、ゆっくりと中に入ってきた。
 ゆっくり、本当にゆっくりと。
 優しく、本当に優しく。
 五ミリ入って、三ミリ戻って……を繰り返すような小刻みな動き。
 その動きが、滲み出している蜜を膣全体にまんべんなく行き渡らせる。
 十分すぎる量の潤滑剤のおかげで痛みなんて全然なくて、指はスムーズに入ってきた。
「あ……ん、ふぁ……あんっ、んっ……くんっ」
 ゆっくり、少しずつ。
 だけど、確実に奥へと進んでくる。
 最初は入口に押しつけられているだけって感じだった指が、今は間違いなくあたしの中に在った。自分で試してみた時よりも奥まで入っている。
 それは、外部からもたらされた異質な存在。お腹の中に、奇妙な異物感を覚える。
 だけど痛くはない。
 むしろ、その逆だ。
「あっ……はぁぁ……あっ! あんっ! ん、くぅんっ」
 予想し、また期待していたことではあったが、玲の指を挿入されるのはやっぱり気持ちよかった。
 単純に膣が受けている刺激だけ比較しても、自分でした時とは比べものにならないくらい気持ちがいい。その上、クリトリスへの愛撫もまだ続いている。
 膣壁と、淫核。
 同時に加えられる刺激。
 それは別々のふたつの刺激ではなく、お互いに強め合うような、掛け合わさった快感だった。
 やっぱりおまんこの中に挿入されるのって気持ちいいんだ、って実感する。
 クリトリスの方が気持ちいい、中はあんまり感じないっていう体験談もよく聞く。経験の少ない子の場合は特にそう。
 だけど、それは真実じゃない。
 純粋に感度という点ではクリトリスの方が敏感なのかもしれない。だけど、この独特の感覚は膣ならではのものだ。
 自分の中に、自分じゃないものが存在している。
 それが、身体の内側から刺激を加えてくる。
 少しだけ痛くて、少し苦しくて、だけど、えもいわれぬ充実感がある。
 この感覚、くせになりそうだ。外からの刺激と合わされば、もう堪らない。
「う……うん……、くっ、ぅん……あ……はぁっ」
 もう、玲の指はずいぶん奥まで届いていた。それは自慰では経験したことのない未知の領域だ。そして、さらに奥へと侵入してくる。あたしの中を侵している。
 ほんの少し、恐怖感を覚える。しかしこの状況では、それすらも快感を増すスパイスだった。
「あぁっ……はぁっ、あぁっ、は……ぁっ!」
 ついに、指が根元まであたしの中に埋まった。女の子のような細く長い中指が、一ミリも余さずあたしの中に在った。指先はいちばん深い部分まで届いて、子宮口をくすぐり、中をかき混ぜるようにゆっくりと動いている。
「んっ……ぅんんっ、く……ぅんっ、ぁ、くふぅぅ……」
「……大丈夫? 痛くない?」
 いくぶん不安げな、気遣うような玲の表情。
 あたしは首を左右に振る。
「い……イ、ヤバいくらいに……イイ、の……」
 目に涙が滲んでくる。気持ちよすぎて泣きそうになっている。こんなこと初めてだ。
 あたしの答えに安心したのか、指の動きが少し大胆になる。濡れた粘膜に、より強い刺激が加えられる。
 それと同時に、親指がクリトリスに押しつけられる。指の腹で転がすように愛撫される。
 膣の奥から湧き出すような快感。
 クリトリスから体内へと浸透してくる快感。
「んっ……く、ぅ……ぅん…………イぃ……いっ」
 ふたつの快楽の波がお腹の中でぶつかって、倍に増幅される。
 しかも――意図した動きではなく指の配置から偶然そうなっているだけだとは思うけれど――薬指がちょうどお尻の穴のあたりをくすぐるように当たっていた。
 その刺激が気持ちいい。
 そこに触れるのが気持ちいいなんて知らなかった。そこは、もっと、こう、経験値を積んだ人たちだけの世界だと思っていた。
 くすぐったいような、だけど甘美な刺激。間違いなく「もっとして欲しい」と思える感覚だ。
 膣、クリトリス、お尻。
 三ヶ所から絶え間なく注ぎ込まれる快感。あたしの中はすぐにいっぱいに満たされてしまいそう。
 なのに、そこへさらにもうひとつの刺激が加わってくる。
 玲は一方の手であたしの下半身を愛撫しながら、もう一方の手はいつの間にかブラウスのボタンを外していた。胸の膨らみを包み込んで、ブラの上から優しく揉んでいる。
「はぁっ、あぁっ……、あんっ……、ぁあんっ!」
 次々と押し寄せてくる快楽の波。どんどん高さと勢いを増して、あたしの意識をめちゃめちゃにかき混ぜていく。
 こんなにすごい快感、初めてだ。
 ひとりエッチはもちろん、昨日よりもずっと気持ちよくて、ずっと激しい。
 もう、限界だった。
 もう耐えられない。このまま頂に達して、そのまま転げ落ちるしかない。
 玲のことも気持ちよくしてあげようなんて考える余裕はとっくになくなっていた。ただただ、押し寄せる快楽の波にもみくちゃにされることを悦んでいた。
「……ごめ……レイ……、あぁっ! あ、たし……ヤバいくらい……感じて……、もうっ、我慢できない!」
 両手でぎゅうっと、玲にしがみつく。
「あぁっ、もう……もうっ、もうダメっ、ダメっ、だめぇっ!」
「セイ、気持ちイイの? イキそうなの?」
「イっ……イぃっ! あっ、あと……でレイもっ、イ……せ……あげ……ぁっ! イィぃっ! あぁぁっ、イっ……イキっ、そ……っ、い……かっ、せて……っ!」
 もう、思うように言葉も出てこない。
「いいよ、イって!」
 手の動きが一気に加速する。
 あたしの中を、外を、前を、後ろを、激しく攻めたてる。
「あぁぁ――っ! あぁっ、いっイィッ! いぃィーっ! あぁーっ! あぁんっ! あぁぁっっ!」
 手の動きとシンクロするように発せられる喘ぎ声は、もう悲鳴というか、絶叫に近い。
 なのに、くちゅくちゅ、ぬちゃぬちゃという湿ったいやらしい音だけははっきりと耳に届いた。
 玲の指が動いている。あたしの中をかき混ぜている。
 あたしの腰が動いている。もっと深く迎え入れようとしている。
 息が苦しい。呼吸ができない。
 白い。
 視界が真っ白になる。
「あっはぁぁっ! あぁぁっ! あぁっあぁぁっあぁぁっあぁぁぁ――――っっ!」
 墜ちる――
 一瞬の浮遊感。
 それはまるで、夢の中で高いところから落ちるような――
 その感覚を最後に、あたしの意識は途切れてしまった。

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