その夜はいつまでも寝つけなかった。
心を落ち着けて眠ろうと思っても、速い鼓動はさっぱり静まる気配を見せてくれない。
記憶が鮮明に残っている。
玲に触れていた手に感触が残っている。
あの温かさ。あの固い弾力。
玲に触れられていた部分にも、その感触が残っている。
指先が擦りつけられた時の、一瞬、気が遠くなるような感覚が忘れられない。
その行為が終わって何時間も経っているのに、身体には感覚がはっきりと残っていた。
神経がいまだにその刺激を伝え続けているかのようだ。あのことを少しでも考えるたびに、実体験と変わらないリアルな感覚が甦ってくる。
身体が、熱い。
身体の中心で、熱い熾がくすぶり続けている。
女の子の部分が、熱を持ってじんじんと痺れている。
いけない、と思いつつも触れずにはいられない。パジャマの中、下着の中に手を入れる。熱く濡れて、柔らかにとろけた粘膜の中に指先を埋める。
身体がびくっと震える。全身の筋肉が強張る。
指先を押しつけただけで、一瞬、意識が飛びそうになった。
あの衝撃的な体験のためだろうか、凄く敏感になっている。これまで経験してきた自慰なんか比べものにならないくらい、強烈な刺激だった。
想い出してしまう。
玲に触られてしまったこと。
玲を触ってしまったこと。
生まれて初めて、男の子にエッチなことをされてしまったこと。
生まれて初めて、男の子にエッチなことをしてしまったこと。
想い出してしまう。
ふたつ重なった、甘ったるい声。
いやらしくも可愛らしい、快感に悶える顔。
想い出すほどに、感覚も甦ってくる。意識せずとも指が動いてしまう。『ごくソフトなひとりエッチ』でしかないはずの行為が、気が遠くなるほどの快感をもたらしてくる。
「くぅ……ぅぅん――――っ!」
しんと静まりかえった深夜の家、大きな声は出せない。きつく噛みしめた唇の端から歓喜の嗚咽が漏れる。
数秒間、息を止めて。
大きく息を吐き出す。
全身が倦怠感に包まれる。
もう達してしまった。こんなに簡単に。
……なのに。
止まらない。
指が、また、動き出している。
腰が動いて、その指を受け入れようとしている。
止まらない。
一度達したくらいでは、止められない。
まだ、満たされていない。
まだ、満足していない。
まだ、火照りは治まらない。
これまでしてきた自慰よりもずっと感じているとはいえ、あの、玲に触れられた時の気が遠くなるような絶頂感にはほど遠い。
あの感覚を求めて、指が動く。腰が動く。
何度も、達してしまう。
何度達しても、あの高みには届かない。
だから、よけいに身体が疼いてしまう。
もっと欲しくなってしまう。
だんだん、指の動きが大きく。
だんだん、押し殺した声が大きく。
それでも、届かない。
もどかしさのあまり涙さえにじませながら、自分を慰め続ける。
結局その行為は目的を果たすことはできず、明け方近く、疲れきって眠りに落ちるまで休みなく続いた。
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