鏡像双姦

by 西崎やまねこ

第2章【1】


 その夜はいつまでも寝つけなかった。
 心を落ち着けて眠ろうと思っても、速い鼓動はさっぱり静まる気配を見せてくれない。
 
 記憶が鮮明に残っている。
 玲に触れていた手に感触が残っている。
 あの温かさ。あの固い弾力。
 玲に触れられていた部分にも、その感触が残っている。
 指先が擦りつけられた時の、一瞬、気が遠くなるような感覚が忘れられない。

 その行為が終わって何時間も経っているのに、身体には感覚がはっきりと残っていた。
 神経がいまだにその刺激を伝え続けているかのようだ。あのことを少しでも考えるたびに、実体験と変わらないリアルな感覚が甦ってくる。
 身体が、熱い。
 身体の中心で、熱い熾がくすぶり続けている。
 女の子の部分が、熱を持ってじんじんと痺れている。
 いけない、と思いつつも触れずにはいられない。パジャマの中、下着の中に手を入れる。熱く濡れて、柔らかにとろけた粘膜の中に指先を埋める。
 身体がびくっと震える。全身の筋肉が強張る。
 指先を押しつけただけで、一瞬、意識が飛びそうになった。
 あの衝撃的な体験のためだろうか、凄く敏感になっている。これまで経験してきた自慰なんか比べものにならないくらい、強烈な刺激だった。
 想い出してしまう。
 玲に触られてしまったこと。
 玲を触ってしまったこと。
 生まれて初めて、男の子にエッチなことをされてしまったこと。
 生まれて初めて、男の子にエッチなことをしてしまったこと。
 想い出してしまう。
 ふたつ重なった、甘ったるい声。
 いやらしくも可愛らしい、快感に悶える顔。
 想い出すほどに、感覚も甦ってくる。意識せずとも指が動いてしまう。『ごくソフトなひとりエッチ』でしかないはずの行為が、気が遠くなるほどの快感をもたらしてくる。
「くぅ……ぅぅん――――っ!」
 しんと静まりかえった深夜の家、大きな声は出せない。きつく噛みしめた唇の端から歓喜の嗚咽が漏れる。
 数秒間、息を止めて。
 大きく息を吐き出す。
 全身が倦怠感に包まれる。
 もう達してしまった。こんなに簡単に。
 ……なのに。
 
 止まらない。
 
 指が、また、動き出している。
 腰が動いて、その指を受け入れようとしている。
 止まらない。
 一度達したくらいでは、止められない。
 まだ、満たされていない。
 まだ、満足していない。
 まだ、火照りは治まらない。
 これまでしてきた自慰よりもずっと感じているとはいえ、あの、玲に触れられた時の気が遠くなるような絶頂感にはほど遠い。
 あの感覚を求めて、指が動く。腰が動く。
 何度も、達してしまう。
 何度達しても、あの高みには届かない。
 だから、よけいに身体が疼いてしまう。
 もっと欲しくなってしまう。
 だんだん、指の動きが大きく。
 だんだん、押し殺した声が大きく。
 それでも、届かない。
 もどかしさのあまり涙さえにじませながら、自分を慰め続ける。
 
 結局その行為は目的を果たすことはできず、明け方近く、疲れきって眠りに落ちるまで休みなく続いた。

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