12

「遅かったな」
 家に帰った私を出迎えたのは、相変わらず素っ気ない宏樹の声。それでも微かに心配していたニュアンスが含まれているように感じるのは自惚れだろうか。
 時刻は午後十時過ぎ。女の子とはいえ今どきの十八歳にとっては特に遅いともいえないが、私が一人で出かけたにしては異例の遅さだ。
「晩メシは?」
「……食べてきた」
 宏樹と目を合わせずに答える。
「風呂、入るか?」
「…………えっと」
「迷うんだったら、入れよ」
 疲れているしなんだか気恥ずかしいし、どうしようか……と悩んでいると、有無をいわさず抱え上げられてしまった。そのままバスルームへと運ばれる。
 宏樹としては、私に入浴させたいのだろうか。そしてエッチなことをしたいのだろうか。
 そう思うと逆らうこともできない。
 服を脱がされていく。背後から腕を回されて胸を愛撫される。うなじに唇が押しつけられる。
 声を抑えるには、かなりの精神力を必要とした。自分でも驚くくらいに全身が敏感になっていた。
「どこ行ってたんだ?」
「……ん、いろいろ」
 耳たぶを噛むようにして囁かれる当然の質問を曖昧にはぐらかす。
 まさか正直に言えるわけがない。
 竹上に、フェラチオの手ほどきを受けていた……なんて。


 竹上の家へ連れて行かれ、そこで紹介されたのは、山野美春さんという同い年の女の子だった。
『紗耶ちゃんっていったっけ? フェラがヘタだって彼氏に怒られてるんだって? 大変だね〜』
 金色の髪を揺らしてけらけらと笑う美春さんは、竹上の幼なじみで、高校を中退して風俗店で働いているのだそうだ。
 そのせいだろうか。同い年のはずなのに、私よりもずっと大人っぽい雰囲気を漂わせている。背はあまり高くないけれど、胸が大きくて、目が大きくて、すごく艶っぽい。お化粧も濃いけれど、美人というよりは愛嬌のある可愛らしい顔立ちだった。
 美春さんにコーチをお願いするに当たって、竹上は適当な作り話をでっち上げていた。曰く、フェラが下手なためにいつも彼氏に怒られているのでなんとかしたい……と。まさか実の弟に行為を強要されているなんて言うことはできない。
『じゃ、時間もないしさっそく始めようか。あたしがユウ相手にお手本を見せるから、紗耶ちゃんは、まずはこれで真似してね』
『え……これ……って』
 有無をいわさず手渡されたものを見て、顔が真っ赤になった。それは男性器を模した、いわゆる「大人のオモチャ」。妙にリアルなその形状に、いやな記憶が甦ってくる。
 たかがオモチャひとつで顔色を変えている私とは対照的に、美春さんはなんの躊躇もなく竹上の股間に手を伸ばしてファスナーを下ろしていった。


 宏樹はいつものように、私の身体を洗ってくれている。
 視界の隅に男性器が映る。
 これもいつものように大きく勃起して反り返っている。そのグロテスクな姿が数時間前の記憶を呼び起こした。
 竹上にフェラチオしている美春さんの姿。
 手でしごいたり。
 舌を絡ませたり。
 根元までくわえたり。
 首を振るようにして内頬に擦りつけたり。
 頬をすぼめて強く吸ったり。
 どこをどうすると男は気持ちよくなるのか、どうすると自分はあまり苦しい思いをしないのか、ひとつひとつ説明してくれながら竹上のものをしゃぶっている。
 私はそれを真似て手の中のオモチャを舐めたり、ちょっとだけくわえてみたりした。たとえ無機物が相手でも、美春さんのような大胆な真似は恥ずかしくてできない。
 美春さんは対照的に、楽しそうに、美味しそうに、そして気持ちよさそうに頬張っている。嫌々、無理やりくわえさせられている普段の私とは大違いだ。
 その光景に目が釘付けになってしまう。
 考えてみれば初めてのことだった。
 宏樹以外の男性のものを直視するのも、男女のこうした行為をビデオや写真じゃなくて実際に目の当たりにするのも。
 不思議と嫌悪感はなかった。自分がさせられているのではないからだろうか。それとも美春さんが楽しそうに、気持ちよさそうにしていたからだろうか。
 私はむしろ興奮してさえいた。顔が火照ってくるのがわかる。下着の中が熱く潤ってきている。脚を閉じてそっと太腿をすり合わせながら何度も生唾を呑み込んだ。
 だんだん美春さんの手や頭の動きが速くなってくる。竹上の息が荒くなり、身体を小さく震わせている。
 そろそろ終わりが近いのだろうか――そんなことを思うのと同時に、竹上は短い呻き声を上げて美春さんの頭を掴んだ。
 びくっと痙攣する。美春さんが口をすぼめて吸う。
 射精したんだな……熱っぽい頭でぼんやりと思う。
『ほら……ね?』
 竹上から離れた美春さんが、私に向かって舌を出してみせる。
 どろりとした白濁液にまみれた舌。栗の花に似た生ぐさい臭いが鼻をつく。
『え……?』
 顔が近づいてくる。その意図を悟った時には手遅れだった。美春さんに腕を掴まれると同時に唇が重ねられていた。
『ん……んんっ?』
 美春さんは意外と力が強く、もがいても逃れることがはきなかった。唇を割って舌が侵入してくる。生臭い粘液が流し込まれる。
 すぐに、抵抗する気力もなくしてしまった。
 予想外の出来事に頭がショートしてしまい、どう反応すればいいのかわからなかったせいもある。
 美春さんの唇の感触が気持ちよかったせいもある。
 そしてなにより、竹上の精液を口中に流し込まれているというのに、不思議とそれが嫌ではなかったという理由が大きい。
 そうすることが当然であるかのように、口の中の粘液を飲み下した。喉に絡みつくような感覚を残して粘液の塊が食道を下っていく。
『ね、意外とイヤなものじゃないでしょ? 慣れるとね、これも美味しく思えてくるんだよ。それに……』
『――っ』
 美春さんの手がスカートの中に潜り込んできた。その不意打ちになんの抵抗をすることもできなかった。
『沙耶ちゃん、興奮してるでしょ? 当然だよね、傍で見ててなにも感じない方がおかしいって。女の子の本能は、ザーメンの味や臭いに反応するんだよ』
 私は顔を真っ赤にして、無言で首を振った。だけど誤魔化しきれない。ショーツの上から触れてもわかるくらい、そこは熱くなっているはずだ。
 微妙な部分に触れている指が小刻みに震える。さすがはプロの技、堪えようとしても切なげな声が漏れてしまう。
『じゃ、今度は紗耶ちゃんがやってみようか』
『……え?』
『気分も昂ってきたところで、実践練習よ』
 美春さんは竹上を指さして笑う。つい先刻射精したばかりのそれは萎える様子も見せず、相変わらず反り返って天井を向いていた。
『実践、って……』
『やっぱり本物で練習しなきゃ。数をこなさなきゃ上達しないよ。ま、ユウを満足させられるようになれば大抵の男はイチコロだから、頑張って』
『頑張って、って……』
 実践?
 竹上を相手に?
 それってつまり、竹上にフェラチオするってこと?
 竹上の顔を見る。いつものようににやにやと、どことなくいやらしい笑みを浮かべていた。私の反応を面白がっているようにも見える。
『ほら、ぐずぐずしない』
 美春さんは私の手を取って、有無をいわさず竹上のものを握らせた。
 初めて、だった。
 宏樹相手に口での行為は何度も経験しているが、それは無理やりくわえさせられたもので、手でそこに触れたことはない。
 それは固くて、熱かった。心臓の鼓動に合わせるように小さく脈打っていた。
『はい、まずはキスからね〜』
 美春さんに頭を押さえられる。竹上の股間が近づいてくる。
『あっ、あのっ!』
 抗議の言葉を発するために開きかけた唇に、熱い肉の塊が押しつけられた。


 今日も、させられるんだな……。
 浴槽の中で身体を愛撫されながらぼんやりと思った。
 宏樹がそれを要求してくる時は、なんとなく気配でわかるようになっていた。浴室の空気が張りつめている。言葉にできない緊張感が満ちている。
 背後から抱きしめられているので、宏樹のものがお尻に押しつけられる形になっていた。それは固く、大きく、勃起していた。
 昼間、垣崎ともしていたのだろうに元気なものだ。そもそも、彼女としたその夜に実の姉に性的行為を強要するというのはどういうことだろう。
 宏樹はいったい何を考えているのだろう。ひとつだけわかっているのは、これから私に欲望をぶつけようとしているということだけだ。
 ほら、来た。
 浴槽の中で宏樹が立ち上がる。
 私の前に立って頭を押さえつける。
 口をこじ開けさせて固い肉棒を強引に押し込もうとする。
 だけど今日、私は初めてそれに抵抗した。
 細い腕に精一杯の力を込めて宏樹の身体を押し返す。
「ら、乱暴なことしないでよね」
 言いながら、一瞬だけ宏樹の顔を見上げる。微かな驚きと戸惑いの表情を浮かべていたように思うが、はっきりとはわからない。まっすぐに顔を見る勇気がなくてすぐにうつむいてしまったから。
 ここからは、面と向かっては言えない台詞だった。
「乱暴にされなければ……」
 腕を伸ばす。宏樹のお腹に触れる。
 そこからゆっくりと手を下へ滑らせていく。
 固くて熱い、男の欲望の象徴に触れる。そっと握ってみる。
「……べ、別に、どうしても嫌ってわけじゃないんだから」
 顔を近づけていく。至近距離で直視するのはやっぱり抵抗があって、ギュッと目をつぶってその先端に唇を押しつけた。


『そう、その調子。唇をすぼめてカリの部分に引っ掛かるようにね。そのまま首を左右に振るように……』
 美春さんの指導に従って、私は竹上相手の口戯を続けていた。
 ひとつひとつ、どうすすればいいのか指示してくれる美春さん。
 言われた通りに指を、唇を、舌を、頭を動かす私。
『時々、上目遣いに相手を見上げるの。その表情がそそるんだから』
 そう言われて視線を上に向けると、にやにやと笑っている竹上と目が合った。
『まだまだ、そんなもんじゃイケねーぞ。もっと頑張れよ』
 竹上はからかうように言うと、私の頭を乱暴に撫で、何度か腰を突き出してきた。
 恥ずかしいのと悔しいのとで、顔を真っ赤にして固く目を閉じる。
 全神経を口に集中する。無我夢中で頭を動かす。
 固い男性器が口の中で暴れている。
 舌を、上顎を、内頬を擦っていく。
 それに指を、そして舌を絡める。
 強く吸う。
 相手が竹上だなんて考えないことにした。先刻の、バイブ相手の練習の延長と自分に言い聞かせる。
 だけどやっぱり意識せずにはいられない。
 今くわえているのは作り物ではない。
 熱い脈動を感じる。これは血の通った男、弟ですらない『男』なのだ。
 生まれて初めて、自分の意志で男性に奉仕している。それも、恋人でもなんでもない相手に。
 なのに私は興奮していた。
 顔が、胸が、そして下半身が熱くなっていた。
 半分は美春さんのせいだ。耳元であれこれと指示を出しながら、手を私のスカートの仲にもぐり込ませている。下着の上から敏感な部分を刺激している。
 頭の中が真っ白になって、なにも考えられなくなってくる。
 気が遠くなりそうだ。
 意識をつなぎ止めるため、私はただ、口での愛撫に全神経を集中していた。


 美春さんに教えられたこと。
 竹上相手に練習したこと。
 ひとつひとつ思い出しながら、宏樹への奉仕を続けていた。
 宏樹はなにも言わず、ただ黙って愛撫に身を委ねていた。
 それでも感じていることは間違いない。
 口の中のものははち切れそうなほどに大きく、固くなっている。時折、押し殺したような荒い息を漏らしている。
 宏樹の顔を見ることはできなかった。この状況に宏樹がどう感じているのか、なにを考えているのか、知るのが怖かった。
 なにも考えず、ただ口と手を動かすことだけに集中する。
 竹上相手の練習で心身ともに疲れ切っていたけれど、それでもいつもよりは楽だった。自分がリードしていると、無理やり奥まで押し込まれるのと違って苦しくない位置を保つことができる。
 宏樹の手は私の頭に乗せられている。いつものように乱暴に掴んだり、揺すったり、髪を引っ張ったりすることもない。
 時々、頭をそっと撫でてくれる。
 それがなんだか嬉しくて、疲れているのに頑張ってしまう。動きを加速する。
 続けているうちに、自分の身体も熱くなってくるのを感じていた。
 下半身が痺れて、唇が、舌が、勝手に動いてしまう。
 気持ち、よかった。
 熱い肉棒に擦られている口の中が気持ちよかった。
 行為を続けながらそっと下腹部に触れてみると、そこは熱い蜜でぬかるんでいた。
 私は興奮していた。宏樹にフェラチオしながら、今までのような嫌悪感を覚えることもなく興奮していた。
 そしておそらくは、宏樹の興奮度も高まってきているはずだ。微かな声が漏れ、手に力が入ってくる。腰がゆっくりと動き出す。
 そろそろ達しそうなのだろうか。竹上をいかせるのにかかった時間に比べるとずいぶん短いけれど、終わりが近い気配が感じ取れた。
 手の動きを精一杯速くする。口をすぼめて強く吸う。
「う……、あ」
 一瞬、宏樹の身体が強張る。手に力が込められる。
 そして。
 口の中で限界まで膨らんでいたものが大きく脈打って爆発した。


 一度目の練習の時は、あまりうまくはいかなかった。
 いくぞ、と予告されていたにも関わらず、その勢いにびっくりして途中で咳き込んで吐きだしてしまった。
 当然の結果として、残りは顔で受けとめることになってしまった。
 竹上の精液を顔に浴びて、だけど宏樹相手の時のような吐き気が襲ってこないことに自分で驚いていた。
 私の顔を拭った美春さんの指が、顔の前に差し出される。
 白い粘液にまみれた指。
 そうすることが当然のように、私はそれを口に含んでいた。


 今度はうまくいった。
 口中に噴き出してきたものは竹上の時よりもずっと量が多く感じたけれど、一滴残らず受け止めることができた。
 口の中をいっぱいに満たした粘液を、一気にごくんと飲み下す。ゼリーの塊を思わせる感触が喉を下っていく。
 さすがに「美味しい」とは思えなかったけれど、吐くほど気持ちの悪いものでもないと思った。
 疲れはしたけれど、行為を強要されていたこれまでのような苦しさとか辛さとかがなくて、比較的上手にできたことに軽い満足感すら覚えていた。
 宏樹も満足してくれただろうか。
 いつもこんな調子なら時々してあげるくらいはいいかな……と思いながら、私は口を離そうとした。
 ところが。
 宏樹の手は、私の頭を押さえたままだった。
 離れることを許してくれない。
 そして、口の中のものはまだ勢いを失っていない。
 ちらりと宏樹の顔を見る。
「…………もう、一回」
 微かに呻くような声で、宏樹はそれだけを言った。


 竹上も、一度では解放してくれなかった。
 一度終わって、肉体的にも精神的にも消耗しきってしばらく呆けていた私が我に返ると、美春さんの姿は見当たらなくて、隣に座った竹上が服の上から私の身体を撫で回しているところだった。
『……なに、してるの?』
 怒っている声を出したつもりだったけど、身体はベッドに横たわったままで、呆けた力のない声ではまるで迫力がない。
『無防備に寝てる女が隣にいたら、とりあえず触るだろ。男としては』
『……』
 言いたいことはたくさんあったが、この男になにを言っても無駄という気がする。心底呆れているぞ、という意思表示のために大きく溜息をついて話題を変えた。
『美春さんは?』
『仕事』
『仕事って……』
 風俗嬢、っていっていた。窓の外はもう暗い。仕事の時間なのだろう。今頃はどこかの男相手に、先刻、手本を見せてくれたようなことをしているのだろうか。その光景を想像して、少し顔が熱くなった。
『ところで竹上、彼女とどういう関係なの? 幼なじみってだけで、口でするのが上手なんて知ってたはずないよね?』
 なんとなくなりゆきでここまで来たけれど、考えてみれば不自然ではないだろうか。
『……元彼女だよ』
 元、の部分に少しだけ力を込めて竹上が答える。
『『元』彼女が、どうしてなんの躊躇もなく、いまさら口でしてくれたりするの?』
『今は……ま、簡単に言えばセフレ、かな』
『セフ……』
 絶句してしまう。いまだバージンの身としては、そうした関係っていまいち実感が持てない。
 そんな会話の間も、竹上はずっと私の身体に触れていた。あえてなにも言わずにいたのは疲れてそんな気力もなかったせいもあるが、一番の理由は、それに嫌悪感を覚えるどころかむしろかなり気持ちよかったからだ。
 服の上から胸を揉まれる。宏樹に触れるのとはまた違った快感が湧き上がってくる。
 女性経験豊富な竹上のこと、私が感じていることはわかっているのだろう。だんだん触り方が大胆になってくる。自分でも不思議なくらい、その愛撫をおとなしく受け入れていた。
 シャツの下に手を入れて、ブラの上から胸を愛撫してくる。もう一方の手が、私の顔に触れる。
 指先が唇の上を滑り、口の中へともぐり込んでくる。私は指にフェラチオするようにそれを吸い、舌を絡めた。
『わかってきたじゃん?』
 竹上が微かな笑みを浮かべる。
『……そりゃあね。こんなハードなトレーニングさせられたら』
『な、もう一回してくれよ』
『なに言ってんのよ、バカ』
『一回くらいで、マスターしたつもりか? 先刻は美春の言う通りにしただけだろ? 一度、自分の力だけで全部やっておいた方がいいんじゃないのか?』
 一応は説得力のある台詞だが、竹上の真意はそんなことではあるまい。
『とかなんとか言って、ただ私にさせたいだけでしょ?』
『その通りだけどな。な、いいだろ』
『もう疲れた。遅くなるし……』
『俺が家まで送ってやるよ。ついでに、晩メシおごってやるから』
 言いながら、もうズボンを脱いでいる。二度も射精した後なのに股間のものは反り返って上を向いていた。
 腕を掴まれてそれを握らされる。それでもまだ私は首を縦には振らなかった。
『……別に私にさせなくたって、美春さんがしてくれるでしょ。私なんて、その……ぜんぜんよくなかったんじゃない?』
 美春さんの流れるような動きに比べれば、ぎこちなかったのが自分でもわかる。なんとかいかせはしたものの、経験豊富な竹上が納得できるレベルとは思えない。
『いや、マジな話、思ってたよりずっと興奮したな。だから、なあ、頼むよ』
 手の中のものの固い弾力を感じながら、私は小さく溜息をついた。
 疲れているし、早く家に帰ってゆっくりと休みたい。第一、どうして竹上のものを二度もくわえなければならないのだろう。
 だけど確かにまだ練習不足ではある。まだ一人でちゃんとできる自信はない。
 それに。
 今の台詞、ちょっと効いた。
 女の子を力ずくで犯すことくらいなんとも思わないはずの竹上が『頼む』だなんて。
 ちょっと愉快でさえある。
 だから。
『……ひとつ、貸しだからね』
 いかにも渋々という風を装いながら、手の中のものにチュッとキスをした。


 今日一日で、竹上相手に二度。宏樹相手に二度。
 宏樹の二度目の射精を口で受けとめた時には、本当に体力の限界だった。
 精液の味って相手によって微妙に違うんだな……なんて馬鹿なことを考えながら、私は浴槽の中で眠りに落ちていった。

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