海へ行くとなると、女の子の場合にはいろいろと準備が必要になる。
例えば体毛の処理もそのひとつ。
たかだか腋を剃ってもらうだけのことが、こんなにも恥ずかしいのはどうしてだろう。
お風呂場で宏樹に全裸を見られたり、身体を洗われたりすることよりもよほど恥ずかしい。我ながら不思議な話である。
シャワーから上がった後、自分の部屋のベッドに全裸のまま座らされた。隣に座った宏樹が腕を持ち上げ、腋の下で剃刀を滑らせていく。
その間、私の血液は沸騰しっぱなしだった。多分、宏樹にお化粧してもらう時と似た心理なのだろう。着替えや入浴といった日常生活に必要不可欠なことではなく、プラスαの部分を男の子に手伝ってもらっている。しかも、否応にも自分の『女』を意識してしまう行為を。
私は顔を真っ赤にして、黙ってうつむいていた。シャワーを浴びてさっぱりしたはずの身体がまた火照ってくる。
発育のよくない身体は、髪の毛以外の体毛もかなり薄く、さほど時間をかけずに処理し終わることだけが救いだった。
ただしそれは、事が腋だけで終われば――の話。
「ついでに、下も処理した方がいいな」
「え、えぇぇっ?」
まったく不意打ちの台詞に、さすがに大声を上げてしまった。
下――下の毛、つまり陰毛。
私と宏樹の関係が、既に普通の姉弟の範疇を超えているのは事実だが、弟にヘアの処理をしてもらうだなんていくらなんでも異常すぎる。
「この前買った水着着るんなら、処理した方がいいだろ?」
確かにその意見は正しい。先日、宏樹の勧めで買った水着は、ややハイレグ気味のかなり露出度が高いビキニである。ヘアは薄い私だけれど面積はそこそこ広めなので、お手入れした方がいいのは間違いない。
しかし、いくらなんでもこれは恥ずかしすぎる。いや、恥ずかしいなんて生やさしいものではない。あまりにも異常すぎる。
剃毛プレイなどという言葉があるのは知っているが、まっとうな恋人同士の間でも、それはあまり普通の行為ではないはずだ。
腋の処理は、これまでも宏樹に手伝ってもらっていた。障害のある左手で剃刀を使うのは危険なのだから仕方がない。だけど、アンダーヘアの処理をしてもらうなんて初めてだ。その気になれば、腋と違って右手一本でもなんとかなる部分。宏樹の手を煩わす必要はない。
これで宏樹がエッチな笑みでも浮かべてくれていれば、むしろこっちもふざけた調子で断ることができる。すべてを冗談で済ませることができる。だけど宏樹はいつも通り、愛想のない真面目な表情だ。まるで、純粋に善意で言ってくれてるみたいではないか。
もちろんそんなはずはない。普段の行いを考えれば、性的な接触を望んでのことに決まっている。もしかしたら、露出の多い水着を勧めたのもこの展開を期待してのことだったのではないかと勘ぐってしまう。
「い……いいよ、それは自分で……」
「いいから」
「……っ!」
有無をいわさず強引に脚を掴まれた。宏樹は私の背後に大きなクッションを置いて寄りかからせると、脚を持ち上げてベッドの上で大きくMの字の形に開かせた。
まるで、男性向け雑誌のエッチなグラビアのようなポーズである。その前に宏樹が屈み込む。
恥ずかしいどころの騒ぎではなかった。
全裸を見られることは日常茶飯事。胸や性器に触れられることも日常の一部。だけど脚を開いて女性器をまともに曝すとなると話が違う。
これはいくらなんでも精神的な負担が大きすぎた。入浴時のように平静を装うことができない。意識せずとも脚を閉じようとしてしまうが、宏樹に押さえつけられていてどうにもならない。
私は耳まで真っ赤にして、ぎゅっと目を閉じた。
しかしこれは失敗だったかもしれない。見えない分、次の瞬間なにをされるのかわからなくて、よりいっそう緊張してしまう。かといって目を開くと宏樹に股間を凝視されている光景が目に入ってしまい、それはそれで心理的抵抗が大きい。
「――っ!」
シェービングクリームの、冷たく柔らかな感触。
限りなくきわどい部分に指が触れ、剃刀が当てられる。
ゆっくりと、肌の上を滑っていく。
腋を処理した後に交換した新品の刃が、音もなく薄い毛を剃り落としていく。
目を閉じていても、はっきりと感じることができた。
宏樹の視線。
見られている。
女の子のいちばん恥ずかしい部分を、見られている。
痛いくらいに質感のある視線が、敏感な粘膜に突き刺さっている。
指も触れている。
軽く引っ張って皮膚を伸ばし、剃刀を滑らせていく。
すごく、すごく、きわどい部分。敏感な粘膜から、ほんの数ミリしか離れていない部分。
宏樹の体温を感じる。
宏樹の呼吸を感じる。
いつもよりほんの少しだけ呼吸が荒いように感じるのは気のせいだろうか。
いったい、宏樹はどんな表情でその行為を続けているのだろう。どんな表情で、私の性器を見つめているのだろう。気にはなったが目を開く勇気はなかった。
普通の姉弟なら絶対に触れない部分。絶対に曝さない部分。恋人以外の男性に見せたり触れられたりしてはいけない部分。
そこを、宏樹に凝視されている。触れられている。あまつさえ体毛の処理をされている。
これだけ異常な状況下で、性器周辺に刺激を加えられて、身体が無反応でいられるわけはなかった。
自分で見なくても、触れなくても、はっきりと感じることができる。
私は性的な興奮を覚えていた。
乳首やクリトリスといった敏感な突起が、ぴりぴりと痺れている。お腹の奥の方が疼いてくる。
そして宏樹の目に曝されている小さな割れ目は、熱い蜜を滲ませている。
こればっかりは意志の力ではどうにもならない。女としての生理的な反応だ。
たとえ相手が血を分けた弟だったとしても、間近で見つめられて、触れられて、なにも感じないわけがない。
今日は嫌というほど恥ずかしい思いをしてきたけれど、これは極めつけだった。
いやらしい蜜を滲ませ、潤んでくるる秘所。そこを見られている。間近で見ている宏樹がその変化に気づかないわけがない。
時々、指がかすめるように触れる。濡れた粘膜は普段の何倍も敏感になって、反射的に脚を閉じようとしてしまう。その度に宏樹の手に押さえつけられる。
「動くなよ、怪我するぞ」
抑揚のない声。
だったらエッチなところに触らないで――ただそれだけの台詞が言えなかった。本当は言うべきだったのだ。軽いノリで、冗談めかして「宏樹のエッチ、どこ触ってるのよ」って。
それだけで、私たちの関係はまるで変わっていたはずなのに。
だけど言えなかった。
この期に及んでも認めることはできなかった。血のつながった姉弟の間に『性』なんてものは介在してはいけない。
これは単に、水着を着るために体毛処理を手伝ってもらっているだけなのだ。たとえそれが、性的にどれほど気持ちのいいものであったとしても。
全身の体温が上がっていく。
私はただ唇を噛んで、どんどん高まっていく快感に耐えていた。
処理が終わるまでの数分間は、まるで拷問だった。
ようやく剃刀が離れていったところで、私は大きく息を吐きだした。
溢れ出た愛液はお尻の方まで滴り落ちている。
もう、絶頂を迎える寸前だった。それでもなんとか切り抜けたのだ――と。
そう、思った。
だけど、まだ終わってはいなかった。
宏樹は何枚かのティッシュペーパーを取って、私の下腹部に手を伸ばしてきた。肌に残ったシェービングクリームや毛の切れ端を拭い取っていく。
それは、直に触れられるのと大差ない刺激だった。薄いティッシュペーパーだけを隔てて、宏樹の指が女の子の部分に触れている。割れ目の中に指先がもぐり込んでくる。
「……っ、ぅ……」
その刺激を無視することは不可能だった。夜、ベッドの中でオナニーする時よりも、先刻、お風呂場でオナニーした時よりも、はるかに強い快感が襲ってきた。
宏樹はただ、剃ったあとを拭いてくれているだけ。いくらそう言い聞かせてもなんの慰めにもならない。そんな欺瞞に意味はない。
この全身を貫くような快感は、紛れもない現実なのだ。
血が滲むほどに唇を噛みしめる。
宏樹のTシャツを、指がくい込むほどに強く握りしめる。
もう限界だった。きわどい部分に触れられ、ヘアを剃られていた数分間は、十分すぎるほどの前戯だった。
乱暴に押しつけられる指。溢れ出た蜜を吸収して濡れたティッシュがその圧力に屈して破れてしまう。
指が直に触れる。
私の女の部分。いちばん敏感な部分。熱く濡れた粘膜に。
「あっ、ああぁ――――っ!」
瞬間、私は宏樹にしがみついて絶叫していた。全身が痙攣する。
たった一枚のティッシュペーパーの有無で、これほど感じ方が変わるなんて思いもしなかった。突然襲ってきた鋭い快感に、あえなく絶頂を迎えてしまった。
宏樹の手が止まる。ぬかるんだ秘所に触れたまま。
私も動きを止める。宏樹にしがみついて、胸のあたりに顔を埋めたまま。
顔を上げて、宏樹の顔を見ることはできなかった。ただ宏樹のTシャツを握りしめて小さく震えていた。
ついに。
ついに、してはいけないことをしてしまった。
宏樹に触れられて、最後まで達してしまった。
宏樹の前で、宏樹によって与えられる性的な快感を声に出して認めてしまった。
なにかが壊れてしまった気がした。二人の間にあったなにか、二人の関係を護り続けてきたなにかが。
どうすればいいのだろう。
私はこの後、どうすればいいのだろう。
宏樹はどうするのだろう。どんなリアクションを見せるのだろう。
しかしその結果は、予想とはかなり異なっていた。
しばらく動きを止めていた宏樹は、やがて新しいティッシュを取ると、なにも言わずに流れ出した蜜を拭き取った。最後にウェットティッシュで綺麗に仕上げをする。
ただ、それだけだった。
普段通りの愛想のない顔で剃刀やシェービングクリームなんかを片付ける。私にショーツを穿かせ、Tシャツを着せる。
私が見せてしまった普段とは違う反応についてはなにも触れず「晩メシできたら呼ぶから」とだけ言って部屋を出ていった。
拍子抜だった。
私にとっては二人の関係が根本的に変わってしまうような衝撃だったのに、宏樹にとってはなんでもないことなのだろうか。姉の陰毛を処理し、性器を間近で見て、あまつさえ自分の指で絶頂を迎えさせたというのに。
しばらくベッドの上で呆けていた。横になって夕食の時間まで休もうかとも思ったけれど、神経が昂っていてとても眠れそうにはなかった。昼寝どころか今夜眠れるかどうかも怪しいほどだ。
まだ、身体の奥に残り火がある。
一人になると、今日の出来事が次々と脳裏に甦ってきた。
バスルームで宏樹の名を呼びながらオナニーしてしまったこと。
おそらくはそれを宏樹に聞かれてしまったこと。
宏樹の眼前に女性器を曝して、陰毛を剃られてしまったこと。
初めて直に触れられて、達してしまったこと。
思い出すほどに、顔が、身体が火照ってくる。
ショーツの中に手を滑り込ませてみた。
今までとは違うつるりとした感触。その奥はまた潤いを増しつつある。
恥ずかしかったけれど、ショーツを下ろして姿見に映る位置で脚を開いてみた。
そこにあった薄い茂みは完全に姿を消していて、子供のようにつるんとした下腹部に淡いピンク色がかった割れ目が口を開いて、愛液に濡れて光っていた。
いくら発育がよくないとはいえ、まったくの子供の身体ではない。なのに無毛で女性器がさらけ出されている光景は、妙に艶めかしくいやらしく感じた。
こんな姿を見られていたのかと思うと、顔から火が出そうになる。と同時に、少し傷ついてもいた。
高校生の男の子が、密室で二人きりでこんな光景を見せられて、あれほど冷静でいられるものだろうか。衝動的に襲いかかったりしたくはならないのだろうか。
肉親をまったく性の対象として見られないならともかく、宏樹は毎日のように私に性的な接触をしているのだ。それなのに、自分自身の性欲を満たすことなくこの場を立ち去った。
もちろん、宏樹に襲われたかったわけではない。しかしこれでは、いかに女としての魅力が乏しいかを宣告されたようでやっぱり傷ついてしまう。
本当に宏樹は平気なのだろうか。
いくら魅力には欠けるとはいえ、同世代の女の子を全裸にしてヘアの処理までして、性器に触れてエッチな声を上げさせて。
なのに自分は射精に至ることなく、我慢できるものなのだろうか。
信じられない。
男の子の生理なんて本やインターネットで得た知識しかないけれど、とても信じられない。
男の性欲は女よりもずっと強いはずではないか。
女の私が我慢できずにいるというのに。
鏡に映った自分のいやらしい姿を見ているうちに、また昂ってきていた。無防備な割れ目にそっと触れてみる。身体に電流が流れる。一度触れてしまったら、もう本当に我慢ができなくなった。
中指を割れ目の中に沈めていく。熱い吐息が漏れる。
シャワーを浴びながら一度、宏樹の指で一度、今日はもう二度も頂を極めているというのに、身体はまだ快感を求めていた。
女の私がこんな状態だというのに、宏樹は平気なのだろうか。それとも今ごろ自分の部屋で、自慰に耽っているのだろうか。私の痴態を思い浮かべながら。
「あ、はぁ……ン、ぅン……だめぇ……あ、ん」
こんなこといけない。そう思いつつも膣内で動く指を止めることができない。
性欲が、女の本能が、理性を完全に凌駕している。
結局、宏樹が夕食の支度を終えて呼びに来るまで、私の自慰は続いたのだった。
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